沖縄県豊見城市出身の藤乃さん(36)=東京都=が2019年に開設したオンラインの手話教室が人気だ。専業主婦の暮らしから一念発起。心理学を参考に開発した教材と指導法が受け、受講者は4千人を超えた。手話講習に特化したオンラインコミュニティーや、講師専用の講座を創設するなど、横展開した事業も順調で、年商は2億円に達する。昨年3月に全国発売した著書も売れ、7刷が決まった。藤乃さんは「全ての人が垣根なく、コミュニケーションが取れる社会を実現したい」と意気込む。(東京報道部・照屋剛志)
藤乃さんは学生時代、埼玉県の国立リハビリテーションセンターで本格的に手話を身に付けた。結婚を機に、東京へ移住。出産後は専業主婦として忙しい日々を送っていた。
子育てが一段落した2018年、「手話の魅力を広げたい」との夢をかなえようと、オンライン講座の設立を決意。効率を重視し、独自教材の開発に取り組んだ。英語学習の書籍を片っ端から読みあさり、いくつもの動画を見て研究していくうちに気付いた。
「なるほど」
昨年3月に発売された藤乃さんの著書「手話教室を始めるための7つのステップ」(セルバ出版)。7刷が決まっている教材を注意深く見ると、記憶を定着させるテクニックがあちこちに散りばめられている。心理学の書籍から、テクニックの裏付けとなる理論も学び、教材に反映させていった。
例えば、脳科学で有名な理論「エビングハウスの忘却曲線」。時間と共に忘れていく記憶も、タイミングよく復習すれば定着する。教材では必ず前回の復習から始まり、一定期間ごとに復習を繰り返す。動画を再生すると、映像よりも音が先に流れるのは、生徒の注意を引きつけるため。講師がいきなりテストを始めることで、緊張感を高め、集中力を持続させるといった工夫を随所に凝らしている。
2023年に沖縄ろう学校へ寄付した藤乃さん(左)と、当時の校長の大城麻紀子さん(提供)。事業を収益化できたことで、全国のろう学校への寄付を始めた初級講座は「初心者が頑張れる」という60日間に設定。15~20分の動画が毎日送られてくる。受講した半数以上が手話検定4、5級に合格するという。中・上級講座も作り、内容を充実させた。
オンライン講座開設に合わせ、2019年にデフリンクス手話協会を立ち上げた。手話を学ぶ人たちのオンラインコミュニティー「デフリンクス・アカデミー」も人気だ。加入者は、都合のよい時間にサイトにアクセスし、手話を教え合う。教える方も、教わる方も手話の技術が上がると好評で550人が加入している。
2022年に始めた講師育成講座は、ハイレベルな手話だけでなく、教室の開設から運営までの細かい経営手法も学べる。これまで250人以上が受講した。初めての著書「手話教室を始めるための7つのステップ」(セルバ出版)は発売3日で重版が決定し、現在も売れ行きがいい。
聞こえる人も聞こえない人も参加できる「ぶらり手話旅」も好評だ。
2023年12月に名古屋市で開かれた「ぶらり手話旅」(提供) 参加者が対面で会話できる上、普段とは異なるシチュエーションでの手話は気付きも多いという。東京だけでなく、大阪や名古屋市でも開催しており、毎回60人ほどが参加する。
事業が軌道に乗ったことで、独自の手話検定試験の創設に向け、7月には社団法人を設立。小学校での手話講演や、ろう学校への寄付も続けている。
藤乃さんがここまで手話普及に打ち込むのはなぜか。背景には、助けてくれたろう者たちへの恩返しがあるという。
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