足尾銅山鉱毒事件の被害民の救済に奔走した田中正造(1841~1913年)の言葉の中から、その年にふさわしい一言を選んで載せる「田中正造カレンダー」が4年ぶりに復活した。解散した栃木県佐野市の「田中正造大学」が31年間手掛けた企画を群馬県館林市のNPO法人「田中正造記念館」(針ケ谷照夫理事長)が引き継いだ。2025年版の一節は「国民監督を怠れバ治者盗を為(な)す」。選ぶ側にも覚悟を促す警句を掲げた。【太田穣】
カレンダー発行は、1986年に開講した正造大学が91年版から始めた。正造の思想と行動を知ってもらおうと、数々の正造の言葉の中からその時々の世相に合い、現代社会にも通じる一言を選定。直筆をスキャンするなどして年間カレンダーの中心に据えた。また、別刷りで、正造がその言葉を書いた背景や活動内容などについて詳細な解説も付けた。
関連団体や正造研究者らに配布し、一般にも頒布。21年版で区切りを迎えたが、大学の事務局長を務めた坂原辰男さん(72)によると、惜しむ声や再開を求める声が22年の解散(閉校)後も多く寄せられたという。
正造記念館の島野薫事務局長(77)もカレンダーを楽しみにしていたひとり。「正造の精神を伝える具体的な媒体として評価していた」と振り返る。坂原さんにも相談しながら再開に向け準備し、昨年秋に25年版の発行を記念館の理事会に打診。年明けには今年度の事業計画に盛り込まれることが決まった。
選んだ言葉は「天の監督を仰がざれバ凡人堕落 国民監督を怠れバ治者盗を為す」。島野さんが理事会に推した。正造が1902年、佐野市内の被害民活動家に依頼されて書いたという。正造大学が08年版で採用しているが、島野さんは「初出の言葉を、という意見もあったが、4年ぶりなので多くの人に『なるほど』と感じてもらいたいと思った」と話す。左肩の部分にひらがな付きの読み下し文と要約を入れた。また、別刷り解説は正造大学時代と同じく鉱毒事件・正造研究者の赤上剛さん(83)が手掛けた。
B2判で、500部作成。9月から一部500円(税込み)で頒布もしている。島野さんは「反響が大きく、手応えを感じている」、坂原さんは「引き継げて良かった」とそれぞれ話している。問い合わせは同記念館(0276・75・8000、ファクス75・8013)。
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