複数の住宅が流され4人が行方不明になった現場付近=石川県輪島市久手川町で2024年9月22日午後1時31分、大西岳彦撮影

 石川県能登半島を襲った豪雨で、輪島市久手川(ふてがわ)町では塚田川が氾濫し、4人が行方不明となった。市立輪島中3年の喜三(きそ)翼音(はのん)さん(14)も21日午前から連絡がとれなくなっており、父鷹也さんは自宅から数百メートル下流にある橋の近くで救出を待った。「ここに翼音がいるんじゃないか。とにかく見つかってほしい」と願う。

 鷹也さんによると、21日朝、他の家族は外出中で、翼音さんは1人で川沿いの自宅にいた。午前9時40分ごろ、知人から塚田川が氾濫していると連絡があり、鷹也さんは翼音さんと無料通信アプリ「LINE(ライン)」で通話した。翼音さんは「道路が海のようで逃げられない」と驚いた様子だったという。2階の部屋の戸も開かず「出られない」と訴えた。LINEのビデオ通話で、2階まで濁流が迫る様子が見えた。

 午前9時52分に話した後にも翼音さんから着信があったが、鷹也さんは他の電話で応答できなかった。午前10時6分にかけ直したが、つながらなかった。鷹也さんは「この数分で流されたのだと思う」と静かに語った。

 消防にも通報し、翼音さんには「大丈夫か?」「消防が来てくれるから窓から手を振れよ」という内容のメッセージを送った。市街地の道路は冠水しており、歩いて帰ると、自宅は基礎を残してなくなっていた。

 22日も午前10時ごろから夕方まで、自宅から数百メートルも下流にある橋の近くで救出作業を見守った。大量の流木や住宅の柱などが数メートルも積み上がり、自宅ガレージの屋根や妹のおもちゃも流れ着いていた。その一帯を自衛隊や警察、消防が重点的に捜索した。

 正午ごろ、翼音さんが保育所に通っていたころの写真が、土手に落ちているのを見つけ、拾い上げた。

複数の住宅が流され4人が行方不明になった現場付近=石川県輪島市久手川町で2024年9月22日午後1時29分、大西岳彦撮影

 「絵がうまくてね」。鷹也さんは娘について語った。マイペースだけど優しい性格。中学では美術部の部長を経験し、「推しの子」などアニメの絵をよく描いている。金沢市内の高校を志望し、将来は公務員になるのが目標だ。

 鷹也さんは「見つかった時は名前を呼ぶと思う。『よう頑張ったな』というか『怖かったな』というか。今は分かりません」と語った。

 輪島市久手川町で何が起きたのか。

 この地区で暮らす女性(59)によると、21日午前5時過ぎから雨が強くなった。茶色く濁った川の流れは勢いを増し、「ゴーッ」という地鳴りのようなごう音が響いていた。「恐怖で眠れなかった」という。

 午前9時ごろだった。「バキバキ」と物が割れるような音が聞こえ、ベランダから外の様子を見渡すと、塚田川沿いにある住宅の納屋が土砂で潰れていた。約1時間後、近くにあったはずの2棟の住宅が消えていた。塚田川の氾濫で一帯には泥水や土砂が流れ込み、この住宅は流されたとみられる。乗用車が川に流される様子も目撃した。

 女性は「道路も土砂で寸断され、周囲では今も土砂崩れが相次いでいる。かろうじて建っている家も崩れてしまいそうだ」と嘆いた。【国本ようこ、砂押健太、中田敦子】

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