1966年6月に静岡県清水市(現静岡市)で一家4人を殺害したとして、強盗殺人などの罪に問われ死刑が確定した袴田巌さん(88)のやり直しの裁判(再審)で、静岡地裁(国井恒志裁判長)が26日、判決を言い渡す。検察側は死刑を求刑したが、死刑囚に対する過去の再審公判4件はいずれも無罪判決が出ており、袴田さんも無罪とされる公算が大きい。地裁が再び捜査機関による証拠の捏造(ねつぞう)に言及するかにも注目が集まる。
袴田さんは事件の約2カ月後に逮捕された。それから約1年後、血痕の付いた「5点の衣類」が、袴田さんが勤務していたみそ工場のみそタンク内から発見された。確定判決は、袴田さんが事件前によく似た服を着ていたことを挙げて5点の衣類が犯行着衣だとし、袴田さんが逮捕される前にタンク内に隠したと認定して有罪とした。
再審請求審で東京高裁は、袴田さんが逮捕前に5点の衣類を隠したとすれば1年以上みそ漬けされていたことになるのに、血痕の赤みが消えていなかったとされることに着目。弁護側の再現実験によれば、酸素に触れて赤みが消失するとして2023年3月、再審開始決定を出した。
赤みが残っていた理由については、事件から時間がたってから、捜査機関が5点の衣類をタンクに入れた可能性に言及した。
23年10月に始まった再審公判でも、5点の衣類が袴田さんのものと言えるかが最大の争点となった。長期間みそ漬けされた血痕に赤みが残るかを巡り、弁護側、検察側のそれぞれが証人を申請した。
弁護側の証人3人は、微量の酸素でも血痕は黒く変色すると指摘。5点の衣類は発見当時、麻袋に入れられていたことから、袋内に酸素が一定程度あったと考えられるとし、「血痕は黒く変色する」と断言した。
一方、検察側の証人2人は、みそタンクのような酸素濃度が低い環境だと、血痕の赤みが失われて黒く変色していく速度は遅いと説明。長期間みそ漬けされたとしても、血痕に赤みが残ることは「あり得る」とした。検察側は論告で、証拠捏造について「非現実的で実行不可能な空論だ」と述べた。
再審公判は24年5月の結審まで計15回開かれた。袴田さんは心神喪失の状態にあるとして出廷を免除されており、公判には一度も出廷しなかった。【巽賢司】
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