石川県の能登半島北部を襲った豪雨は、風光明媚(めいび)な能登の広大な田畑を一変させた。「頭の整理が追いつかない」。元日の能登半島地震からの復興を目指し、やっとの思いで秋の収穫を迎えようとしていた農家の損失は計り知れない。
田畑見てがくぜん
「あまりの光景に、思考が停止した」。
珠洲(すず)市岩坂町でブロッコリーや米を栽培する瀬法司公和(せほうじきみかず)さん(44)は、茶色い池のようになった自分の田畑を見てがくぜんとした。
21日は午前中から大粒の雨が地面をたたきつけ、近くの金川があふれた。周辺の道路が通行止めになったため、瀬法司さんは急いで近所の中学校に避難した。
雨が落ち着いた午後4時ごろに田畑を見に行くと、作物が泥水につかっていた。
それから数日後。水は引いていたが、土砂や地震の復旧工事に使われていたパイプなどのごみが大量に散乱していたという。耕作する約10ヘクタールの田畑のうち、4ヘクタールが無残な姿となった。
ブロッコリー2万個傷つく
これから収穫を迎える予定だったブロッコリー約2万個は傷がついて出荷できなくなった。収穫前の米も稲穂が倒され、半分近くが腐ったり枯れたりするのを待つしかない状況だ。
田んぼは元日の地震で水を入れるパイプラインが破損し、5月末に修復したばかりだった。
瀬法司さんは「豪雨直後は心の整理ができなかったが、『なにくそ』という気持ちが芽生えている。おいしいと待ってくれている人たちのために、農業を続けたい」と気丈に話した。
世界農業遺産もまた被災
世界農業遺産に指定され、その絶景から奥能登を代表する観光スポットになっている輪島市の「白米(しろよね)千枚田」でも複数箇所で斜面が崩れ、棚田が何枚もえぐられた。
地元の住民でつくる「白米千枚田愛耕会」の堂下真紀子さん(40)は「震災の時よりもダメージは大きい。マイナスの状態から、また頑張らないといけないのかと思うと……」と胸中を語る。
1004枚の田んぼが連なる白米千枚田は、地震で8割に亀裂が入るなど甚大な被害が出た。
住民ら10人ほどでひび割れの修復や水はけの確認など復旧に取り組み、9月上旬に作付けできた120枚の稲刈りを終えたばかりだった。
今回の豪雨で江戸時代から守ってきた用水路が破損し、水を引く取水口も確認できなくなったという。
「来年に向けて残りの棚田の復旧を頑張ろうと思っていた矢先だった。正直、私たちがやってきたことは何だったのかと思ってしまう」。堂下さんは肩を落とした。
地震で稲刈り遅れ被害拡大
県は、9月27日時点で輪島市や珠洲市など3市1町の計250カ所の農地で斜面の崩壊や土砂の流入などの被害を確認した。農作物の影響は現在も調査中で全容はまだ分かっていない。
能登農業協同組合(JAのと)の中島正明専務によると、1月の地震で地割れや用水路が破損するなどした影響で、田植えの時期が例年より2~3週間遅れていた。例年は9月中旬ごろがピークの稲刈りがずれ込んでいた農家も多く、被害が拡大しているという。
中島さんは「地震の被害から苦労して乗り越えたところに豪雨に襲われ、ぼうぜんと立ち尽くしている農家さんもいた」と打ち明ける。
土砂や泥水の影響を受け、農作業用の重機にも被害が出ている。「収入減を余儀なくされる農家も多いと思う。広くサポートが必要な状況だ」【大坪菜々美、古川幸奈、芝村侑美】
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