伊豆半島の中央に位置する静岡県伊豆市は、2024年4月に民間の有識者グループが発表した全国744の”消滅可能性自治体”リストに入ってしまった。

市は“消滅”回避に向けて移住者の増加を目指し、住宅購入や就業の補助金・支援金のほか、子育て支援の充実にも力を入れている。

移住希望地の人気No.1は4年連続で静岡県

2024年7月、静岡県は都内で移住相談会「静岡まるごと移住フェア」を開いた。

相談者:
50歳ですけど、例えば月の家賃の何割か支援はないですか

伊豆市の担当者:
移住してくれる人の促進のための補助金はあります

相談者(横浜在住):
単身で、女性で移住するのがちょっと不安で、例えば住まいの面とか

森町の担当者:
(女性の単身移住は)最近めっちゃ増えているんですよ。30代前半くらいで1人でパーンって来ちゃって、テレワークだったり就職したり、いろいろですけれど

相談者(横浜在住):
森町は知らなかったんです。でも話しを聞いてかなり魅力的で

「静岡まるごと移住フェア」には県内35市町のうち33市町が相談ブースを出し、約200組300人が相談に訪れるなど盛況だった。

ふるさと回帰支援センターによると静岡県は移住希望地として最も人気が高く、2020年から2023年まで4年連続で全国1位となっている。

都内在住の相談者に聞くと「自然のある所というところで、静岡は第一候補ですね」と希望する理由を教えてくれた。

移住者に人気でも転出超過は続く

また、実際に移住してくる人も年々増加傾向にあり、2023年度は子育て世代を中心に過去最多となる2890人が静岡へと移り住んでいる。

静岡県くらし・環境部の平松直子 参事(移住・定住担当)は「今後も引き続き情報発信、きめ細やかな相談対応、受け入れ体制の充実の3本柱で取り組んでいきたい」と話す。

一方、2023年に県外へと転出した人の数6万4896人で、転入してきた人の数5万8742人を6154人も上回っていて、転出超過をどのように食い止めるのかが大きな課題だ。

”消滅可能性自治体”の衝撃

伊豆半島の中央に位置する伊豆市。自然や温泉などに恵まれているが、人口減少や高齢化は深刻だ。

人口は2万8012人(2024年7月1日時点)。

2004年7月には3万7869人だったことから、わずか20年で1万人近くが減少した計算で、高齢化率も40%を超えている。

2024年4月、その伊豆市に激震が走った。

民間の有識者グループ・人口戦略会議が発表した全国744の”消滅可能性自治体”に入ってしまったのだ。

人口戦略会議では、2020~2050年の30年間で若年女性人口が50%以上減る自治体を”消滅可能性自治体”としていて、伊豆市企画財政課の土屋直也 課長は「衝撃的な言葉なので、けっこう衝撃でしたね」と振り返る。

このため伊豆市では住宅購入の補助金や就業支援金を用意するなど移住政策に力を入れているほか、第2子以降の保育無償化や高校生までの通学補助金といった子育てや教育支援も手厚くしている。

さらに修善寺駅前には移住情報センターを設置。

移住やUターンによって伊豆市に住むようになったスタッフが生活や住宅に関わる相談に乗っていて、内容は常に市の担当者とも共有を図り、2023年度は47人が県外から伊豆市に移り住んだ。

「自然豊か 子育て政策も充実」

伊豆市内で特産のシイタケを栽培している野本達彦さんは、高知県で警察官をしていたものの農業への憧れを捨てきれず、妻の佳織さんが沼津市出身だったこともあり、8年前に伊豆市への移住を決めた。

野本達彦さんは「僕が生まれた出身地の隣町と雰囲気がそっくりだったので違和感なく、自然豊かで、元々人混みが好きではないので過ごしやすそうだなという印象を受けた」と話す。

現在は妻と保育園に通う2人の子供と共に充実した時間を過ごしている。

妻・佳織さんも「ここ(伊豆市)で子育てしていて、子供を持っていることで嫌なことを言われたりされたりしたことが1つもない。皆が温かく見守ってくれる」と、伊豆市での生活を気に入っている。

野本さんがしいたけをつめた袋にシールを張る作業を 娘と一緒にできるのも、今の仕事をしているからこそのことだ。

野本達彦さん:
警察官をやっていた時は当直勤務が常にあったので、朝起きて夜寝るという当たり前の生活ができなかった。いま人間として当たり前の生活ができていること自体が幸せだと思いますし、(伊豆市は)子育て政策なども充実しているし、その辺はすごく満足しています

これからもずっと伊豆市には住み続けたいか尋ねると、野本さんは「もちろん。この商売をやっていますし、ここに骨を埋めるつもりで来ていますので」と笑った。

自治体によって置かれた環境や財政規模が違う中、県外から移住を希望する人たちにどのように魅力を発信し、どのような支援を展開していくのか。

人口減少という大きな課題に対し決定的な解決策が見出せない中で、それぞれの自治体の苦悩と模索が続く。

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