SES企業の経営者らに賠償命令を言い渡した東京地裁=東京都千代田区で2020年1月15日午前10時36分、米田堅持撮影

 過重業務で精神的苦痛を受けたとして、システムエンジニア(SE)派遣会社に採用された20代の男性が、派遣会社の経営者ら2人に約500万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は経営者らに約250万円の賠償を命じた。

 判決は7月19日付。一場康宏裁判長は「違法な業務命令があった」と理由を述べた。

 派遣会社は、取引先から依頼を受けてITエンジニアを派遣し、取引先の職場のシステム開発や保守を支援するサービスを展開していた。

 IT業界で「SES(システム・エンジニアリング・サービス)」と呼ばれる業務形態だが、人手不足の影響で不適切な派遣が増えているという指摘がある。

 判決によると、男性は大学4年生だった2021年2月、派遣会社から採用内定を得た。21年5月から取引先に派遣されたが、1カ月後に退職した。

 男性側は訴訟で、ITエンジニアとしての経験がなかったのに、派遣会社から経歴や年齢を偽って営業活動をするよう指示されたと主張した。

 男性は実務経験のあるSEとしての派遣が決まったが、実際は未経験者だったため、取引先の職場で業務をこなすことができず、孤立無援となって精神的苦痛を受けたと訴えていた。

 判決は、派遣会社が未経験者を派遣しながら、経験者を派遣した分の報酬を得ていたと指摘し、「派遣会社の事業内容は取引先に対する詐欺行為」と認定した。

 さらに、未経験者の派遣を実現させるため、男性に経歴や年齢を詐称させていたことも認め、「社会的な相当性を欠く。正当なものとみるべき余地はなく、違法な業務命令だった」と批判した。

 男性を支援した労働組合によると、他にも同種の相談が寄せられているという。

 派遣会社側は判決を不服として控訴している。【菅野蘭】

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。