従業員のリスキリング(学び直し)を実施した企業に支払われる国の「人材開発支援助成金」について、不適切な支給が検査対象の3割に上ったことが9日、会計検査院の調べで分かった。企業がリスキリングを訓練機関に外注した際、一部費用が実質的にキックバックされ、支給要件の「全額負担」とは認められない事例があった。
不適切な支給額は1億円を超え、国の審査の甘さも指摘された。
人材開発支援助成金は、企業のリスキリングを支援するため、企業が負担した訓練機関への委託費などを国が助成する制度。
所管する厚生労働省の要領によると企業が費用を全額負担することが要件で、訓練内容に応じて30〜75%を助成する。訓練期間中の賃金を一定額支援する賃金助成もある。
検査院は各地の10労働局が2019〜23年度に支給決定した約7万件のうち、113事業主に支給した244件(計約2億8100万円)を検査対象として選定。8労働局が32事業主に支給した83件で、訓練機関への委託費の支払いと近接した時期に訓練機関側から企業に対し一定額の「返金」を確認した。
訓練機関から企業への返金は、アンケートや感想文の提出、訓練風景の写真撮影への協力を「業務契約」とみなして支払われていた。
検査院によると、訓練機関側は企業に「業務契約を結べば、役務への支払いとして訓練機関側が一部費用を負担できる」「実質無料で訓練を受けられる」などと説明。助成金と返金の合計額が訓練経費と一致するケースが大半だった。
検査院はこうしたキックバックに近い取引について、実態として全額負担の要件を満たさないと判断。32事業主への助成金計約1億700万円が不適切だったとした。
このうち2社では訓練機関からの返金名目となった業務協力の形跡すら確認できなかったといい、検査院は助成金の返還を求めるよう厚労省に要求した。
リスキリングの市場は拡大している。政府は労働市場改革を進める上で、学び直しで個人の能力を高め、成長分野に人材を移動させて企業の生産性を高めることを促している。厚労省によると、23年度の全体の支給額は前年度に比べて約3割増え197億円だった。
検査院の担当者は「今回は抽出調査のため、氷山の一角の可能性がある」と話す。
国側の制度設計や審査の甘さも明らかになった。
助成金の申請受け付けや支給決定は各地の労働局が担う。不正受給の調査のため、支給前に企業からの提出書類を審査するとともに、必要に応じて支給決定後も実地調査する。
検査院が21〜23年度の支給決定について、全国47労働局を対象に訓練機関側から企業側への入金有無を確認しているかを調べたところ、8割超の労働局が未確認だった。
厚労省は訓練機関との業務契約や入金があった場合の具体的な対応方法について明確に定めておらず、検査院は要領の見直しやマニュアルの作成を求めた。同省の担当者は「今後、助成金の適正な支給の確保に向け、適切に対応する」とコメントした。
財政制度に詳しい白鴎大の藤井亮二教授は「会計検査院が調査するのは一部の事業に限られ、他にも隠れている事案はあるだろう。不正があることを前提に、要領や審査内容を作成しなければならない」と話す。
「予算が潤沢な事業では使い切らなければと思い、チェックが甘くなる傾向がある。助成金を出しっぱなしにするのではなく、効果も含めてきめ細やかに検証することが不正の抑止力になる」と強調する。
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