活動写真の時代から栃木県足利市の映画文化を支え、2000年に閉館した同市井草町の映画館「足利東映プラザ劇場」が、市の区画整理事業に伴い取り壊される。綾瀬はるかさん、坂口健太郎さんが共演した映画「今夜、ロマンス劇場で」のロケでは、タイトルになった「ロマンス劇場」として使われ、聖地のひとつになった。廃虚巡りの人気も高く、解体を惜しむファンも多い。
劇場は、史跡足利学校や鑁阿寺にも近い市中心部にある。足利市史によると、前身の「有楽館」の設立が1922年1月。24年版の「大日本職業別明細図」には現在と全く同じ場所に「活動有楽館」があり、大正時代から娯楽の場として親しまれていた。
戦後、足利有楽館、足利東映有楽館と名前を変え、77年に建物を全面新築し、「足利東映劇場・足利東映プラザ劇場」の2館併設に変更。東映邦画の専用館、洋画や角川、ジブリ作品の配給館とすみ分けながら上映を続けたが、映画産業の斜陽化などを背景に経営が悪化し、00年4月に閉館した。
その後は引き受け手もなく、鉄骨造り陸屋根瓦ぶき3階建ての建物は放置されていたが、18年2月公開の「今夜~」(武内英樹監督)が市内で撮影されることになり、昭和の風情を色濃く残す同劇場を「ロマンス劇場」として使うことが決まった。ロケは前年の17年春から始まり、同劇場の美術セット制作には延べ約40人の市民がボランティアとして加わった。撮影終了後もセットの一部を残してもらい、同市が企画したロケ地ツアーは、募集開始から30分で定員40人に達する人気ぶりだったという。
劇場がある井草町は市施行の「中央区画整理事業」(施行面積4・2ヘクタール)のエリアで、計画では劇場も南側の一部が幅員6メートルの区画道路にかかる。事業の遅れや土地建物の相続、抵当権の問題もあり、手つかずになっていたが、今年5月に所有者が代わり、今年度内の解体が決まった。
ロケ当時、同市映像のまち推進課(21年度で廃止)で同作品を担当した嶋田真規さん(35)は「制作会社のスタッフと市民が協力し、ほぼ1カ月かけて理想のセットを作り上げた。得がたい経験だった。解体後も作品の中で『ロマンス劇場』として残り続ける」と感慨深げ。また、足利の古い街並みにひかれて移住し、歴史的建造物の再生などに取り組んでいる女性経営者(40)は「これからは決して建てられない劇場らしい劇場。鑁阿寺にも近く、利用法次第ではまちづくりの核になりうると感じていた。とても残念」と惜しんだ。
この区画整理事業では29年度までの施行期間に、同劇場を含め計65戸の解体や移転が見込まれている。【太田穣】
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