「青春のおそばやさん」運営・白井陽介さん(43)
定年退職した60歳以上の高齢者が人生を謳歌(おうか)できる場所を、何としても提供したかった。飲食店経営で得たノウハウを生かし、高齢者が主役のそば店「青春のおそばやさん」を2023年8月に香川県宇多津町でオープンさせた。障害者や高齢者の就労を支援する会社を運営し、誰もが生き生きと働き共に支え合う社会を目指している。
同県丸亀市出身。幼少期から料理が得意だった。県内の高校を卒業後、大阪市の調理師専門学校に進んだ。同市のイタリア料理店を経て香川に戻り、和食店やホテルレストランなどで経験を積んだ。33歳で独立後、焼き肉店など複数の店を経営している。
22年には障害者や高齢者を支援する会社も設立した。きっかけは、友人が事故で脊髄(せきずい)を損傷し、車椅子生活になったことだった。「障害者がやりたいことを達成するためのサポートをしよう」と決意し、事業を始めるために約半年間猛勉強して福祉関係の資格を取得した。
介護の仕事をする妻の影響で、高齢者へのケアも意識するようになっていた。建設会社を定年退職後、タクシー会社などで働いていた父の姿を見て、セカンドライフにとまどっている高齢者が多いことに気づいた。同じ会社で働き続けた父のような高齢者にとって、新しい職場になじむことは難しいのだろう。多くの高齢者が安心して働ける職場を提供しようと思いついたのが、「青春のおそばやさん」だった。
店で働くスタッフの職歴は元大工や元介護士などさまざまで、飲食の仕事が初めての人もいる。中には「また社会に出られると思っていなかった」と話す人も。店内で手打ちする10割そばを提供し、メニュー数はスタッフが覚えやすいように少なくした。店内には「一度定年を迎えた方が働く場所。『生きがい』を見つける場所です」というコンセプトを掲示。「生きがいを見つけたスタッフのキラキラした表情を見てください。そして応援して楽しんでいただけると幸いです」と来店客に伝えている。体力が衰えても働ける環境、失敗が許される温かい職場作りが、高齢者の安心感とやりがいを生み出している。
自身が「おじいちゃん子」だったこともあり、高齢者へ恩返しをしたいという思いは強い。「青春のおそばやさん」は24年9月に高松市の栗林公園北口にフランチャイズ2号店が開店し、活動に共感した女性が運営。いずれは県外進出も考えている。地元香川を盛り上げるため、これからもさまざまな挑戦を続けるつもりだ。【川原聖史】
白井陽介(しらい・ようすけ)さん
香川県丸亀市在住。本業の傍ら、2019年に香川の魅力を発信する一般社団法人を設立。瀬戸内海の島でフェスを開催して全国各地から人を呼び込み、香川県のファンを増やす活動もしている。中高時代は野球漬けの毎日を送った。人を引っ張ることが好きで、中学時代は生徒会役員、高校の野球部では主将を務めた。小学2年の息子と一緒に料理をするのが楽しみの一つ。
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。