レンジで調理する料理研究家の村上祥子さん=福岡市中央区で2024年4月3日正午、矢頭智剛撮影
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 栄養分を逃さず、短時間で調理できる電子レンジを活用したレシピを次々と考案し、「電子レンジ調理の第一人者」と呼ばれる料理研究家で管理栄養士の村上祥子さん=福岡市=は、82歳になった今も体には不調一つなく、現役で料理教室の生徒たちを教えている。その元気の源とは――。

 「料理のことは24時間考えている。『どんなことを教えようか』と、毎日希望に満ちています」。同市中央区にある自身の料理スタジオで笑顔を見せた。ここで開講する「村上祥子料理教室㏌福岡」には、現在も月4回、20代から80代まで幅広い年代の生徒が通ってくる。

 材料の買い出しは自ら一人でこなす。「スタッフが行くと、購入予定の食材をそろえると予算を超えそうな時、私に相談の電話をくれます。でも私が行けば、市場(の動向)が分かるし、購入も判断できる。責任のあることは全て自分でやろうと思うのです」

 片道約30分、行きつけのデパートの食品売り場には歩いて行く。肉や魚、野菜、果物などを次々買い込むと、手元の買い物袋はいっぱいに。重さ15キロほどになり、担いで帰ったこともある。

 1942年に若松市(現・北九州市若松区)で生まれ、2歳で津屋崎町(現・福岡県福津市)に疎開した。終戦後、父が出征から戻り、母と2歳下の妹の家族4人の生活が始まった。村上さんは料理が得意でなかった母に代わり、小学生の頃から台所に立った。

「電子レンジ調理の第一人者」として知られる料理研究家の村上祥子さん=福岡市中央区で2024年4月3日午前10時25分、矢頭智剛撮影
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 母は食事が気に入らないと「食べられたものか」と突き返してきた。だが村上さんは「母は子供だからと褒めたりせず、正直な感想を言ってくれた。私も全然くじけなかった」。20歳になる頃には一通りの家庭料理ができた。22歳で会社勤めの夫と結婚し、2男1女をもうけた。

 27歳の時、社宅で一緒だった外国人の女性から「日本食を教えてほしい」と頼まれたことがきっかけで、家庭料理の研究家としてのキャリアが始まった。43歳で母校・福岡女子大の非常勤講師になり、調理学などを担当した。

 同大で糖尿病の予防や、その改善に向けた食事の開発を進める中で、着目したのが電子レンジ。食材の持つ水分を生かし、調味料を少量に抑えることができ、効率よい加熱で栄養分を逃さず、短時間で仕上げられるのが強みで、ご飯やおかずのほか、レンジ発酵で手早くできるパン作りも話題を呼んだ。

 仕事を始めて55年。講演会の講師や新聞・雑誌の連載、企業向けのレシピ考案や監修は今も現役だ。「電子レンジ簡単レシピ100+」(永岡書店)などの料理本から今年発売のエッセーまで、手掛けた著書は570冊以上、発行部数は計1200万部を超える。引退を考えたことも体力的にきついと感じたこともない。

 健康のために大事なことを聞くと「3食食べること。特に炭水化物は絶対に抜かない」と栄養のプロらしい答えが返ってきた。摂取後速やかにブドウ糖に分解・吸収されエネルギーとなる炭水化物は「体に供給できれば元気に動ける」と強調する。

「冷凍食材150グラムのパック」を使って作るみそ汁
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 だから、外出時にはバッグに必ずおにぎりを入れている。というのも、以前、乗り合わせた新幹線が雪で徐行運転になり、目的地への到着が大幅に遅れた際、あらかじめ駅弁を二つ買って持っていたことで安心できた経験があるからだ。

 もう一つ大事な栄養素が、骨や筋肉などを作るために欠かせないたんぱく質だ。炭水化物は過剰に摂取すると脂質に変わり皮下脂肪として蓄えられるが、たんぱく質はためることができない上、体格によって摂取後8時間で吸収できる量も限りがある。「だからたんぱく質も3食コンスタントにとるよう意識することが重要」と語る。

 手軽な食事として提案するのがみそ汁だ。具材を冷凍保存しておき、電子レンジでみそと一緒に加熱調理する。

 年を重ね、1人暮らしになると、料理を一から作るのがおっくうにもなりがちだが、「全てを手作りする必要はない」とアドバイスする。

 例えば、下処理済みで市販される八宝菜の調理キットにはエビや肉、野菜など豊富な食材が入っている。「自分でそろえると大変。そこに家にある野菜をゆでて加えるだけでいい」。1食につき海藻や野菜100グラムを目安に食べるのがお勧めだ。

 コンビニエンスストアなどの総菜を「味が濃い」と感じる人にはちょっとしたアレンジ術を提案する。「(食べ物に)水大さじ2杯をかけ、電子レンジで加熱してから上澄みの水を捨てると、調味料が40%ほど溶けて流れていく」という。「自分で手直しして、出来立てをいただく。おいしく食べることが一番」

 夫が10年前に先立ち「寂しさも感じるけど、くよくよしてもしょうがない」。かつて村上さんが家庭料理を続けるか、分野を絞った専門家を目指すか悩んだ時に「家庭のご飯は中華もフレンチも出る。頑張りなさい」と励ましてくれた夫の言葉は今も支えになっている。「皆さんが食べたい、作りたいと思うご飯を教えていくのが家庭料理。長年の経験と日々の勉強を混ぜた知恵を、分かりやすい形でお返しします」【本多由梨枝】

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