2012年12月2日に発生し、9人が死亡した中央自動車道笹子トンネルの天井板崩落事故からまもなく12年。中日本高速道路(名古屋市)が再発防止策の一環で建設した社員向け研修施設「安全啓発館」が報道向けに公開された。4月に甲府支局に赴任した記者も、研修と同じルートを約1時間半かけて回った。
安全啓発館は、中日本高速八王子支社(東京都八王子市)の敷地内にあり、地上2階建て、延べ床面積は約2000平方メートル。21年3月に完成し、グループ会社を含む社員の4割超に当たる約5300人が研修を受けた。警察や消防、研究者ら約1200人も見学に訪れた。
1階に入るとまず、事故直後のトンネル内を実寸大で再現した高さ約10メートルの模型がある。崩落した天井板は実物が展示され、触れると排ガスの黒いすすが手についた。
2階では、当時対応に当たった社員3人のビデオメッセージが流れた。現場に駆けつけたという男性社員が「遺体収容時に警察から『NEXCOの関係者ならよく見ておくように』と言われました」と振り返る場面が印象的だった。ただ、動画は計3分ほどで、追体験するには少し物足りない。
国交省の事故調査・検討委員会が13年にまとめた報告書に沿って事故原因の解説も掲示され、設計から施工、点検といった複数の要因が累積し、事故に至ったとしている。天井板のつり金具を固定するボルトは、00年を最後に詳しい点検をせず目視にとどめていたことも書かれていた。
案内してくれた総合安全推進部の野吾彰大担当課長は、点検を簡略化した理由を「言い方は良くないが、後回しになっていた」と振り返る。12年1月、東名高速の高架で部材が垂れ下がり、下を走るJR東海道線が運転を見合わせるトラブルがあり、管内の安全確認作業に追われていたという。
一方で、野吾課長は、詳しく検査していたとしても危険を予見できなかった可能性があるとも説明。事故後の対策として「落ちる危険があるものを残してはいけない(という方針で)上になくてもいいものは外すようにしている」と話した。
最後に入ったのは、犠牲者5人が乗っていたワゴン車や遺品が並ぶ1階の車両室だ。遺族が「車はひつぎ」と表現したことから、展示の上を歩かないように建物から突き出した部屋にした。室内に設けた献花台は、手を合わせると事故現場の方角を向くように設計したという。研修に訪れた社員らが折った千羽鶴が周囲の壁に並んでいた。
ワゴン車は、天井板が落ちたとみられる左側が特に激しくつぶれている。野吾課長は、どの座席に誰が座っていたのか、犠牲者や遺族のエピソードを交えて解説した。
安全啓発館は現在、一般には公開されていないため、一部の遺族は公開を求めている。各地で問題となっている公共インフラの老朽化を考える上で、遺品などの展示品が今後も多くの人の目に触れてほしい。【野田樹】
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