三島由紀夫の写真や自決した際の新聞各紙などが展示された三島生誕100年祭=日本近代文学館で2024年11月27日午後、稲垣衆史撮影

 来年1月に生誕100年を迎える作家の三島由紀夫(1925~70年)。その貴重な資料を展示した企画展「三島由紀夫生誕100年祭」(実行委員会主催)が30日、日本近代文学館(東京都目黒区駒場)で始まった。直筆原稿や書簡など未発表を含む約200点が展示されている。

みどころは未公開書簡

 今回初公開となる書簡のうち、文芸誌「新潮」の編集者だった菅原国隆氏に宛てた2点も展示されている。

 55年6月10日付と特定された書簡は代表作「金閣寺」の最初期の構想が生まれた直後に書かれたものとみられ、原題として<人間病>などと記されている。

 もうひとつの書簡は、49年11月13日付のはがきで、菅原氏から50枚程度の短編の<未来小説>を提案されたのに対し、三島が<ダアとなりました。小説といふものは持続の観念で、ある妄念の持続が傑作をつくるのです>などと、どこか不満気な様子を記している。

三島由紀夫が「新潮」の編集者・菅原国隆氏に宛てた書簡の一部。「持続が傑作をつくるのです」などと小説観がつづられている=東京都目黒区で2024年7月14日午後、渡部直樹撮影

 さらにプルーストの大作長編「失われた時を求めて」を挙げて、<たつた三百枚だつたら、一寸(ちょっと)ユニークな小説といふにとどまります><永いからこそ傑作だらうと僕は思ひます。之(これ)に反して、短篇(たんぺん)小説は、妄念の断片では意味がありません。本質的にリアルでなければならん。(エラさうでせう)>などと、短長編小説に対する持論を展開している。

 はがきを分析した白百合女子大の井上隆史教授(日本近代文学)によると、この頃の三島は、自伝的小説「仮面の告白」が大きな話題を得た直後。「さらに長編を書きたいから、その舞台を用意してほしい」と、新潮社の菅原氏に暗に売り込んでいる内容とも読み取れるという。

 三島は実際に翌50年以降、新潮社から続々と作品を発表するようになり、井上教授は「作家・三島として書き続けられるかは、その後の作品次第という状況の中で、さらに飛躍していくきっかけとなったやりとり」と見る。

三つの愛(マニア)

 今回の企画展は、「三島愛(ミシマニア)」「書物愛(ビブリオマニア)」「日本愛(ヤポノマニア)」の三つの観点から会場を構成し、三島の文学や思想を100年の歴史の流れの中で読み直そうと試みている。

 「三島愛」では、交流のあった作家の安部公房や遠藤周作らと相互に送り合った署名入りの献本などを展示し、交友関係を描く。

 「書物愛」では装丁や挿画など美しい本づくりにこだわった三島の一面に焦点を当てる。遺作の4部作「豊饒(ほうじょう)の海」の初版本に使われた「輪廻(りんね)転生」を描いたとされる装丁画家・村上芳正氏の原画も展示する。

 そして「日本愛」では、三島が自決した際にも着用していたことで知られる民間防衛組織「楯の会」の特注の制服の他に、自決直前に都内の百貨店で開いた自身の展覧会に飾った直筆原稿入りのびょうぶも展示している。

生誕100年イベントも

三島由紀夫が自決する直前に開いた自身の展覧会のサイン入りポスターや直筆の招待状=東京都目黒区の日本近代文学館で2024年11月29日、稲垣衆史撮影

 生誕100年に当たる1月14日には、晩年の三島と交流があった画家・横尾忠則さん(88)と、三島作品が作家の原点となった小説家・平野啓一郎さん(49)のトークイベント「三島、100歳!」を日仏会館(東京都渋谷区恵比寿)で開催する(12月中旬から受け付け)。展示資料の特別レクチャーなども企画している。

 企画展は2025年2月8日まで。開館は午前9時半~午後4時半(入館は午後4時まで)で、観覧料は一般300円、中高生100円。

 毎週日曜・月曜定休。12月27日~1月6日の年末年始と1月14、23日は休館(1月13日はイベントのため開館)。

 イベントなどの詳細や問い合わせは、企画展のホームページ(https://mishima100.jp/)より。【稲垣衆史】

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