ドクターヘリ運航時のレーダー不停波問題を受け、宇川連合区が提案して実現したヘリポート=京都府京丹後市丹後町の旧宇川中で2024年12月3日午後2時、塩田敏夫撮影

 弾道ミサイルを探知・追尾するXバンドレーダーを配備した米軍経ケ岬(きょうがみさき)通信所が2014年12月に京都府京丹後市丹後町で稼働を始めて26日で10年になる。近畿で唯一の米軍基地の町の10年を検証する

。 「基地が目の前にある以上、文句だけ言って終わり、では何も始まらない。米軍人も基地に住んでおり、同じ人間として安全で安心な暮らしを望んでいる。どうしたらお互い少しでも良い方向に向かうのか、住民目線で具体的に行政に提案してきました」。Xバンドレーダーを配備した米軍経ケ岬通信所がある京丹後市丹後町の宇川連合区の会長を長年務めた小倉伸さん(72)は語り出した。

 宇川は近畿最北端に位置し、夏はエメラルド色に輝く日本海と山々に囲まれた自然豊かな地域だ。宇川連合区は基地の所在地である袖志、尾和地区をはじめ近隣の計14の集落(約1000人)で組織する連合自治組織で、防衛省主催の米軍経ケ岬通信所安全安心対策連絡会(安安連)では地域住民代表の立場で参加してきた。

 安安連は3カ月に1度開催される。その1週間ほど前に、宇川連合区は基地近隣の袖志、尾和、中浜の各区長、市の基地対策室を交えて事前協議を行うことを続けてきた。課題を出し合い、事前に要望を防衛省・米軍に伝え、安安連はその回答を引き出す場となるよう力を尽くしてきた。

 米軍基地建設工事を巡り、防衛省は休日は実施しないと約束したが、米軍は工事を強行することがあった。基地稼働後も次々と問題が起き、宇川連合区は住民から上がった声を受けとめ、行政を動かして解決を目指した。

 そうした活動の結果、宇川地区の「交通安全マップ」が誕生した。基地には多くの人が出入りし、道路事情に不案内の米軍関係者の交通事故が多発した。

 小倉さんは事故現場に走り、写真を撮った。どのような場所で事故が起きやすいのか、危険箇所を確認するためだった。その写真を地図に貼り、小学生の通学路などとともに「注意が必要な危険箇所」「スピードを落としてください」とアピールする「交通安全マップ」を完成させ、防衛省を通じ米軍に提供した。米軍にとっても欠かせない情報で、防衛省は快く英訳してくれたという。

 また、野生動物の出没情報を米軍に提供した。宇川地区にはシカやイノシシなどの動物が多く生息しており、重大事故にもつながりかねない接触事故が度々発生していたからだ。野生動物対策は住民にとっては切実な問題で、米軍にとっても同様だ。

 こうした地道な取り組みは、同じ生活者としての米軍人と地域住民との信頼を深めている。最近では、米軍も野生動物の目撃情報を防衛省を通じて地元に連絡してくれるようになり、米軍と地域住民がお互いに情報共有する仕組みができた

 「交通安全マップ」だけではない。ドクターヘリ運航時に強力な電波を出すレーダーの停止を要請しても、米軍が応じない問題が発生したことを受け、飛行制限区域外の旧宇川中にヘリポートを設置することを提案。小中保育園のスクールバスへのドライブレコーダーの設置、住民の信仰の対象になっている海岸の崖に大きく開いた海食洞「穴文殊」の真上(基地内)に米軍が設置したコンテナトイレの撤去なども行政に働きかけ、実現させてきた。

 小倉さんは「行政とは、こっちも考えるからそっちも考えてください、とやりとりすることが大切です。地元の要望は実現してもらわないと困るから。行政に動いてもらい、米軍にきちんと伝えることが必要」と語る。

 そのうえで、基地稼働で次々と起きる問題の背景に米軍の特権を定めた日米地位協定があると指摘。「国や米軍に対し、自治体がきちんともの申す姿勢が強く求められている」と語った。【塩田敏夫】

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