JR九州が公表した鉄道の収支によると、鹿児島では6つの路線で営業損益が赤字で、最も赤字額が多いのは、JR指宿枕崎線の指宿駅から枕崎駅の区間。赤字経営が続くローカル線だが、鉄道を活用した街づくりを若い世代が議論するなど新たな動きもある。
通学2時間超 車窓からは美しい景色
午前4時半。鹿児島県立鹿児島水産高校1年の茂谷さんの朝は、早い。
茂谷さんが通う鹿児島水産高校は、薩摩半島南西部の枕崎市にある。鹿児島市内の自宅から学校までの道のりを、JR指宿枕崎線を使って、毎朝2時間以上かけて通学している。
この記事の画像(22枚)茂谷さんは「地元の友達や親を大事にしたいなと思い、ここから頑張って通学しようと思った」と、時間がかかる通学の理由を語る。
最寄り駅のJR坂之上駅を、午前5時6分発の列車で出発する。27駅を通過する長旅だ。
JR指宿枕崎線は朝と夕方、多くの生徒が通学に利用している。鹿児島中央駅と枕崎駅を結ぶ約88kmの区間だ。薩摩半島南部の海沿いを走るルートもあり、途中に錦江湾(鹿児島湾)や桜島、薩摩富士と呼ばれる開聞岳(かいもんだけ)など、車窓から美しい景色を堪能できる。
温泉地の指宿市やカツオのまち、枕崎市方面への交通手段として、JR九州では観光列車も走らせている。
利用客数は減少 鉄道を生かした街に
JR九州によると、JR指宿枕崎線のうち指宿から枕崎の区間では、1kmあたりの1日の平均利用客数は2000年以降減少が続き、2023年度は222人だった。JR九州が発足した1987年度と比較すると、約8割近く減少している。
さらに、営業損益もマイナス4億6200万円と、鹿児島県内の赤字ローカル線の中でも最も多い。人口減少やマイカー利用者の増加が主な理由とみられている。
このような状況に対し、JR九州の古宮洋二社長は「鉄道に対する地元の色々な気持ち、我々の経営上の問題もあり、方向性を見いだすにはある程度時間をかける必要がある。急いで、お互いしこりを残して解決するものではない」と、慎重な姿勢を見せる。
このような方針を受け、JR九州や沿線自治体では、存続か廃止かを前提にするのではなく、鉄道を生かした沿線地域の街づくりについて、協議を始めた。
メンバーの1人である呉工業高等専門学校・神田佑亮教授は、「赤字赤字と言っているのは、あくまで事業としての赤字であり、地域の経済と維持にかかるお金を天秤にかけたときに、地域の経済が鉄道の維持費より上回れば、鉄道が存在する意味はあるのでは」との見解を述べる。
6年前に廃線した沿線 過疎化進行か
神田教授のいう「鉄道が存在する意味」について探るべく、広島県に向かった。
広島県北部にある三次市。人口約5万人で、島根県との県境にあり2018年3月まで、JR三江線が走っていた。三次駅から島根県の江津駅まで108kmを結んでいたが、利用客の減少などで廃線になった。
三次市では、廃線後の市民の足を確保しようと、代替バスを走らせている。
三次市まちづくり交通課の呑谷巧課長は「バスは家の近くに来るので助かる。バス停でなくても、手を挙げたら乗れる、フリー乗降ができる地域もあり、利用しやすくなったという声がある」と胸を張る。
沿線の住民に聞くと「車社会だから困ったことはほぼない」「バスがいつまで続くのか不安もある。年齢的に、免許証返納したら買い物などできるのか不安」と、反応は様々だ。
また、三江線の島根県側にある町では、NPO法人が自家用車を使った送迎サービスを行っている。利用者からは便利だという声も聞かれるが、「遠方に行くときには対応できない」といった課題は残されているという。
三江線沿線をたどると、駅や線路が廃線当時の状態で残されている。住民は「廃止になって過疎化が進んだ。廃屋が最近、特に多い」と、寂しそうだ。
また、「川沿いの風景とともに楽しめる線として価値が有るな、ということを最近になってつくづく思う。今となっては遅いのだが」と、送迎サービスのスタッフは唇をかんだ。
鉄道を生かした街づくり 若者が議論
2024年10月、JR指宿枕崎線沿線地域の高校生が集まり、ワークショップが開かれた。
「JR指宿枕崎線のいいところは、海がきれいなこと」「猫カフェや猫駅長など、動物を使った集客方法を使ってはどうか」「景色が良いところはスピードを落として運行するとどうか」など、鉄道を生かした街づくりをどうすべきか、若者の視点で議論が交わされた。
利用者が減少し続けるローカル鉄道。すでに、JR三江線が廃止になった沿線では、「なくしちゃいけない、なくすなという以前に、あなたたち乗りなさいよ」「今、いろんな廃線跡の活用がされているが、そういうのを見ていると、どのタイミングで自分たちがまず気づけるかというのが、大事だと思う。自分たちにとって、どれだけ生活に必要なものなのかということを、普段から話し合ったり、気づけることが必要じゃないかと思う」といった声も聞かれた。
鉄道に存在する意味を見いだし、さらに、鉄道を生かした地域作りをどうするか。
ヒントは、廃線を経験し改めて存在の意味について向き合った人たちの言葉の中にあるのではないだろうか。
(鹿児島テレビ)
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