GX2040ビジョンでは脱炭素と経済成長を両立する戦略を練る(13日、GX実行会議で発言する岸田首相)

政府が2040年の脱炭素社会を見据えた新たな国家戦略を策定する。エネルギーの安定供給や産業立地、産業構造を一体的に検討し、官民の指針として掲げる。

個別の検討でなく全体最適を目指す発想は評価できる。脱炭素を成長戦略とみなす欧米に負けず、日本も説得力ある見取り図を描き、産業競争力を強化したい。

岸田文雄首相が議長を務めるグリーントランスフォーメーション(GX)実行会議が「GX2040ビジョン」を年内にまとめる。国際公約である50年の温暖化ガス排出量実質ゼロへ向けて、経済成長との両立の道筋を示す。

政府は昨年、GX推進法を制定し、今後10年程度の投資促進策を議論してきた。ただ中東情勢の緊迫や人工知能(AI)の急速な普及、米中対立を背景にした経済安全保障など変数が増えている。

一連の情勢を踏まえ、視線をもっと先に置いて既存の計画を発展的に見直す。40年度の電源構成目標を定めるエネルギー基本計画や水素の利用、二酸化炭素(CO2)の回収推進などの施策を有機的に結びつける検討を望みたい。

とりわけ大きな変数が電力需要の見通しだ。従来は人口減少を背景に漸減を想定してきたが、AI活用に必要なデータセンターや半導体工場の国内回帰で、一転して急増するとの予測が強まる。

十分な電力供給がないと成長産業が海外へ逃げてしまう。現行の脱炭素電源は再生可能エネルギーが北海道や九州、稼働中の原子力は西日本に偏在する。電源近くにデータセンターを立地させる新たな産業集積は検討に値しよう。

製鉄、化学など日本が強みを持つ素材産業の脱炭素化や、曲がるほど薄いペロブスカイト型太陽電池のような日本発の技術の産業化への支援も重要だ。国産化が難しい場合は友好国との間で供給網を整備し、エネルギーと産業、通商の総力戦で臨んでほしい。

政府は10年間で20兆円のGX経済移行債を呼び水に民間に130兆円の投資を促すが、必要額は膨らむ可能性が高い。企業のCO2排出に課金するカーボンプライシングの制度設計を工夫し、財源も併せて示す責務があろう。

政府・与党は激変緩和のはずだったガソリン補助金にすでに約5兆円を支出し、なお終了期限を示さない。市場をゆがめ、脱炭素に逆行する施策はすぐに打ち切り、成長投資へ振り向けるべきだ。

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