就寝・起床時間を決めて、夜更かしをさせないなど親にできることは多い ADENE SANCHEZーE+/GETTY IMAGES
<幼少期の慢性的な睡眠不足で免疫系が暴走し、20代前半で精神疾患を発症する確率が高まることが英豪研究チームにより明らかになった>
幼少期の慢性的な睡眠不足と20代前半における精神疾患の発症には関連があることを示す分析結果が発表された。
米国医師会報(JAMA)の精神科専門誌に5月に掲載された英バーミンガム大学と豪メルボルン大学の共同研究チームの論文によれば、幼少期に長期にわたり睡眠不足が続くと、20代前半で精神疾患を発症する確率が2倍以上も高まると考えられる。
なぜか。答えの1つとして、チームは炎症反応の異常を挙げる。
大人と同様、子供もなかなか寝付けなかったり、よく眠れなかったりすることはあり、それ自体は全く問題ないと、論文の筆頭執筆者であるバーミンガム大学心理学コースのイザベル・モラレスムニョス助教は報道発表で述べている。「ただし(専門家の)助けが必要な場合もあり、それを見極めることが重要だ」
研究チームはイギリスで行われた有名な大規模調査「エイボン縦断的親子研究」のデータを分析した。1991~92年に旧エイボン郡で生まれた1万2394人の子供の睡眠時間のデータと、その子たちのうちの3962人が24歳になった時点での「精神病症状体験」(PE)などメンタルヘルスのデータだ。
幻覚や妄想などのPEは統合失調症、双極性障害、重度の鬱病の症状として現れることもあるが、PEがあったからといって、これらの疾患にかかっているとは限らない。
睡眠習慣は親が対処可能
データを分析した結果、生後6カ月から7歳までの間に慢性的な睡眠不足だった人は24歳までに精神疾患にかかる確率が2倍以上高く、PEがある確率に至っては4倍近く高いことが分かった。
幼少期の慢性的な睡眠不足と成人早期における精神疾患の発症に関連があることは確かにせよ、この2つを結び付ける要因ははっきりしない。
睡眠不足が免疫機能の異常を招くことは分かっている。また、精神疾患の患者に慢性的な炎症が多く見られることも報告されている。
そこでチームは幼少期の睡眠不足と20代前半におけるメンタルの不調を結び付ける要因の1つとして炎症反応に着目。エイボン研究参加者が9歳の時に採取され、冷凍保存されていた血液サンプルの炎症マーカーを調べた。
結果、睡眠不足による免疫系の調節機能の低下(慢性的な炎症をもたらす)が後年にメンタルの不調を招く一因と考えられることが分かった。
ただし要因はほかにもありそうだ。今回は「炎症マーカーに現れる免疫系(の異常)に的を絞った」が、それは決定的な要因ではないと、モラレスムニョスは本誌に話した。今後は脳の発達に及ぼす影響を重点的に探りたいという。
精神疾患の発症にはトラウマや環境要因なども関わっているが、幼少期の睡眠不足と発症リスクの関連性が示されたことは大きな意味を持つ。
睡眠不足の解消で精神疾患の発症を完全に防ぐことはできなくとも、「幸い睡眠習慣は改善できることが分かっている」から、それについては「親が対処できる」と、モラレスムニョスは言う。
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