科学的な実験の結果、このポテトチップスを食べるかどうかを判断する基準は、3秒以内に拾うかどうかといった時間の問題ではないことが判明した。(PHOTOGRAPH BY LORI ADAMSKI PEEK)

私たちは子どもの頃から、ある疑問につきまとわれている。落とした食べ物は、はたして食べても安全なのだろうか?

答えのひとつに、素早く拾えば大丈夫というものがある。いわゆる「3秒ルール」だ。よく似たルールは世界中にあり、米国では「5秒ルール」と呼ばれている。

それだけに、こうしたルールにさしたる根拠があるとは思えず、世界各地の家族の論争や科学展でもおなじみのテーマになってきた。だが幸いにも、3秒ルールの微妙なニュアンスを科学がようやく解き明かしつつある。

床はおろか、指やまな板からも……

3秒ルールの真偽を解くカギは、細菌が床から食べ物に移動する時間だ。米ラトガーズ大学の食品科学者ドナルド・シャフナー氏は、多くの検証がずっと間違ったやり方で行われてきたと話す。アマチュアによる科学研究やテレビ番組の「調査」は、科学的な審査を通過していない実験に基づいており、その結果、混乱を招いているというのだ。

事実、3秒ルールが厳格な手法で調査された例は、シャフナー氏が検証した2016年以前には1つしかなかった。米クレムソン大学の食品科学者ポール・ドーソン氏らが2007年に行った研究だ。査読を経て学術誌「Journal of Applied Microbiology」に掲載された論文では、物体の表面に接触してすぐ、食品には細菌が付着すると報告している。

ただし、この研究ではむしろ、細菌が汚染された食品の表面でどれくらい生きられるかに焦点を当てていた。シャフナー氏と当時学生だったロビン・ミランダ氏が、より多様な条件下で、より多様な食品をテストすることに決めたのはそのためだった。

シャフナー氏らが、2016年に学術誌「Applied and Environmental Microbiology」に発表したその研究結果によれば、食べ物が細菌だらけの地面に置かれている時間が長いほど、多くの細菌が付着することは間違いなかった。しかし、地面に落ちてすぐの時点で、食べ物にはすでに大量の細菌が付着したという。したがって、3秒であれ5秒であれ、ルールとしては誤りであることを示唆している。

むしろ問題は、時間ではなく水分だった。水分のある食品(実験で使われたのはスイカ)は、パンやグミのような乾いた食品よりも多くの細菌が付着した。また、タイルやステンレスに比べると、じゅうたんの方が細菌の伝播(でんぱ)は少なかった。これは、実験のために細菌が含まれる液体を塗布したところ、じゅうたんが細菌ごと液体を吸い込んだからだ。

その後、2020年には人の指から、2023年にはまな板からでも(たとえ料理中に洗ったとしても)、台所の細菌が簡単に食べ物に移ることが確認されている。2021年には、インドネシアの科学者らも「belum lima menit」と呼ばれてきた自国の5秒ルールの誤りを学術誌「Journal of Community Medicine and Public Health Research」に発表した論文できっぱりと指摘した。

それでも3秒ルールは存在し続ける可能性が高い

では、もし3秒ルールの誤りを科学が証明したとしたら、地面に落ちた食品を食べるのは安全ではないということだろうか?

それは地面の状態と付着する細菌の種類による。「食べ物を落とした場所が病院だったら、おそらく食べたいとは思わないでしょう」とドーソン氏は述べている。同様に、鶏肉の肉汁が台所の床にこぼれていたら、サルモネラ菌が付着しては困ると思うだろう。

しかし、ほとんどの場合、少しほこりが付いたクッキーを拾って食べても、正常な免疫系を持つ人が、床に存在する細菌のせいで健康を損なう可能性は低い。「おそらく99%のケースは安全です」とドーソン氏は話す。結局、最も重要な教訓は、床や物体の表面をきちんと掃除し、衛生状態を良好に保つべきだということだ。

それでも、3秒ルールは存在し続ける可能性が高い。シャフナー氏は「人々はこのルールが事実であってほしいと心から願っています」と分析する。「誰でもやっていることです。要するに、私たちは皆、床に落ちた食品を拾って食べています」

3秒ルールの価値はおそらく、微生物学的というより心理学的なものなのだろう。少なくとも、ルールがあれば、本来ならば好ましくない行動を、社会的に受け入れられる言い訳で帳消しにできる。床に落ちたクッキーを拾い、口に放り込む前に「3秒ルール!」と叫ぶだけで、周りにいる全員が大笑いできる。

そして、落としたジェリービーンズを食べるかどうかを決めるには、別の方法もある。誰かに見られていないかどうかを確認することだ。

ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2020年9月3日に公開した記事に情報を追加し、更新しました。

文=ERIKA ENGELHAUPT/訳=米井香織(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2024年5月21日公開)

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