クマムシは高温や乾燥など過酷な環境への耐性が強い微小な生物だ=東京大学の国枝武和准教授提供

東京大学の国枝武和准教授らは過酷な環境でも生きる微小生物クマムシの遺伝子を操作できるゲノム編集技術を開発した。高温などへの耐性に関わる遺伝子やたんぱく質の研究に活用し、常温で乾燥保存できるワクチン技術などへの応用を目指す。

クマムシは体長1ミリメートル未満の微小な動物で、こけなどに生息する。高温や凍結、強い放射線などの過酷な環境でも生存でき、「最強の生物」ともいわれる。乾燥すると体を収縮させて生命活動を停止するが、数年後でも水をかければ復活する。

クマムシは他の生物には無い特有な遺伝子を持つ。環境耐性に関わる遺伝子が特定されているが、クマムシの体内で遺伝子の実際の働きを調べることは難しく、遺伝子を操作できるゲノム編集技術が必要だった。これまでは別の動物の細胞内で遺伝子の働きを調べる実験などにとどまっていた。

親になるクマムシの幼体にゲノム編集用のたんぱく質などを注入する=東大の国枝准教授提供

研究チームはクマムシの一種であるヨコヅナクマムシを対象に、昆虫向けのゲノム編集技術を応用して遺伝子操作の技術を開発した。親となるクマムシの腹部にゲノム編集用のたんぱく質などを注入すると産卵し、遺伝子を改変した子どもが得られた。

過去の研究では、クマムシの放射線耐性に関わる遺伝子をヒトの培養細胞で働かせると、通常の2倍の放射線に耐えるという報告もある。だが、クマムシの放射線耐性はヒトの1000倍もある。複数の遺伝子などの相互作用で高い環境耐性を実現しているとみられるが、詳しい仕組みは不明だ。

こうした放射線耐性などに関わる遺伝子をゲノム編集技術を活用して探し、過酷な環境でも生体分子の構造や機能を保つ仕組みの解明を目指す。低温下での輸送や保管にコストがかかるmRNAワクチンや抗体医薬品といったバイオ医薬品を常温で乾燥保存する技術などの開発につながる。今回の成果は国際科学誌「プロス・ジェネティクス」に掲載された。

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