ジャガイモの葉に病原菌をつけると黒くなってしおれる㊧が、活性酸素を作る成分を葉にかけておくとしおれるのを防げた=名古屋大学の竹本大吾教授提供

名古屋大学の竹本大吾教授や小鹿一名誉教授らは、植物に与えると病原菌への感染を抑えられるワクチンのような成分を見つけた。ジャガイモの食用部や葉にかけると免疫反応が起き、菌の感染を抑えることを確かめた。農薬の代わりに使えるとみており、環境負荷のより低い農業の実現につなげる。

研究チームはジャガイモの食用部にカビを生えさせたり、葉を枯らしたりする「ジャガイモ疫病菌」に対し、ジャガイモが免疫反応として抗菌物質や活性酸素を作ることに注目した。この菌の膜を詳しく分析したところ、ジャガイモが抗菌物質や活性酸素を作る引き金となる2種類の成分が含まれていた。

抗菌物質を作る成分を調べると、「エイコサペンタエン酸(EPA)」が含まれており、これが免疫反応を起こしていた。EPAをジャガイモの食用部にかけると内部で抗菌物質が数日間盛んに作られた。菌が繁殖しにくくなり、イモについた菌の胞子の数はEPAをかけなかった場合の1割以下に抑えられた。

疫病菌を葉につけると通常は黒くなってしおれるが、活性酸素を作る成分を葉にかけておくと抵抗力が高まり、こうした変化が抑えられることも分かった。

2つの成分をイネやナズナなど他の植物にかけても免疫反応が起きた。多くの植物は抗菌物質や活性酸素を作って病原菌の繁殖を抑えるため、2つの成分は幅広い植物の病原菌対策に使える可能性がある。

ジャガイモ疫病菌は19世紀中ごろ、欧州各地でジャガイモの大凶作を引き起こした。現在では化学農薬を使えば発生を抑えられるが、農薬は植物に被害を及ぼさない菌や他の生物にも作用してしまう。

今回発見した成分は天然に存在する菌由来のもので、環境に想定外の影響を及ぼすリスクが小さいとみる。今後、より強い免疫反応が長く続くような成分の開発を目指す。

竹本教授は「今後は植物の免疫を活性化する成分に加え、成長を促す成分なども研究していきたい」と話す。研究成果をまとめた論文が米国の植物生理学会が発行する学術誌に掲載された。

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