従来のゲノム編集と大腸菌のゲノム組み替え

 大腸菌の中で大規模にDNAが組み換わる仕組みを解明したと、東京大と米アーク研究所のチームが発表した。この仕組みを応用すれば、生命の設計図とされるゲノムを桁違いの規模で改変・生成できる次世代のゲノム編集技術につながる可能性がある。

 DNAは多くの生き物では不変だが、大腸菌は、自らのDNAの一部分を切り取って別の場所に組み込む「組み換え」をすることが知られている。だが、どんな仕組みで起きるかはよくわかっていなかった。

 チームが電子顕微鏡などで詳しく解析すると、組み換えに関わる部分から、組み換えを促進する酵素「リコンビナーゼ」と、組み換える場所を特定する「ブリッジRNA」が作られていた。

 大腸菌はこの酵素とRNAを機能させることで、組み換えをランダムに行っているのではなく、必要な部分だけを狙った場所に正確に行っていることがわかった。

 現在のゲノム編集技術は、2020年にノーベル化学賞の対象となった「クリスパー・キャス9」という手法が広く使われている。今回とは別の酵素とRNAを使い、狙ったDNAを精度よく欠損させたり改変したりできる。一方、組み込めるDNAが100~200塩基対と少ないのが課題だ。

 今回の手法が他の生き物にも使えるかはまだわかっていないが、もし応用できれば、1万塩基対ほどのDNAでも組み込むことが可能だという。クリスパー・キャス9と比べ、ゲノムの情報量を桁違いに書き換えられ、ゲノムを人工的に作り出す合成生物学の手法にも近いという。

 チームの西増弘志・東京大教授(構造生物学)は「非常に複雑な反応を可能にする、これまでの常識を覆す仕組みだ。大腸菌以外の生物でも効率よく反応させることができれば、次世代のゲノム編集ツールになり得るだろう」と話した。

 成果は27日、英科学誌ネイチャー電子版に2本の論文(https://doi.org/10.1038/s41586-024-07552-4)(https://doi.org/10.1038/s41586-024-07570-2)が掲載された。【渡辺諒】

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