チチブイワザクラが生育していた現場近くでNPO法人が実施した調査の様子(横瀬町作成の現地調査報告から)=埼玉県秩父市で2024年7月24日午後、照山哲史撮影

 武甲山(標高1304メートル)にある国指定天然記念物の石灰岩地特殊植物群落について、NPO法人が2018年10月に行った現地調査は、1982年にチチブイワザクラが確認された生育地で行う予定だったが、「時間、地形の制約」で現場に到達できなかったことが判明した。NPOの報告書は「存在を確認できなかった」としており、指定地内に自生するとされる絶滅危惧植物の「消息」は40年にわたり不明のままだ。

 毎日新聞の情報公開請求で埼玉県横瀬町が開示した記録などで明らかになった。

 開示文書によると、調査は、環境省による第5次レッドリスト(2024年度以降に順次公開予定)作成の協力依頼を受けたNPO法人「県絶滅危惧植物種調査団」のメンバー3人が、18年10月17日午後1~4時に行った。近い将来、野生で絶滅する危険性が極めて高い「絶滅危惧ⅠA類」に分類されるチチブイワザクラの生育状況を確認するためだ。

 1951年に天然記念物に指定された地域(88年に指定解除)は石灰岩採掘の影響でチチブイワザクラが見られなくなっていたため、調査は83年に追加指定された標高595~755メートルの約3万2000平方メートル(現在の指定地)を対象とした。町教育委員会が85年に編集発行した「天然記念物『武甲山石灰岩地特殊植物群落』追加指定地域の地質と植生」に記載された、指定決定時の植生調査(82年)の記録を参考にした。

 植生調査は指定地内に10メートル四方の正方形の区画を14カ所設定して実施された。チチブイワザクラが確認されたのはそのうち1区画(標高650~670メートル)だけ。同区画は斜度が50度近い岩角地で、主として切り立った岩壁の基脚部に生育しているなどと記されていた。NPOが作成した現地調査のルート地図や関係者への取材によると、調査ではこの区画に近付くことはできたが、急峻(きゅうしゅん)で入ることができなかった。

 NPOの調査報告は、「(82年の調査では)詳細な生育地点は不明であり、時間・地形の制約もあり、全域を調査できず、その存在の確認に至らなかった」と結論づけている。調査に同行した町教委が当時まとめた調査報告も同趣旨を記した上で、斜面での調査を撮影した写真を添付している。

 調査は、翌19年9月24日にも実施予定だったが降雨で中止。延期された翌10月17日は台風の影響で中止となり、19年度内の実施が見送られたことも開示資料で示された。

 町は40年以上にわたり、「指定地に入ることによる環境への負荷」を理由に一度も植生などを調査していない。また、「地質と植生」では、埼玉大の教授(当時)が指定地内のチチブイワザクラ生育地が低木類との競争関係にあるため、環境整備の必要性を指摘していたことも判明している。【照山哲史】

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