FASER実験の検出器(CERN)

千葉大学などの国際研究グループは大型の円形加速器で発生させたニュートリノを捉え、2種類のニュートリノを検出した。人工的に発生させたニュートリノでは従来検出できなかった高エネルギー帯のニュートリノだった。今後、検出器の増設や高性能化をする予定で、未知の物理法則や素粒子の発見につなげたいという。

ニュートリノは物質やエネルギーの最小単位である素粒子の一種だ。質量がほとんどなく、物質などを透過して飛んでいる。ニュートリノには電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノの3種類がある。

今回はFASER実験という国際プロジェクトの成果だ。欧州原子核研究機構(CERN)が所有する大型ハドロン衝突型加速器(LHC)を使い、光速近くまで加速した陽子同士が衝突した時に発生する粒子を観測する。

加速器を使うことで、エネルギーの高いニュートリノを生成できる。また検出器までに岩盤などがあるため、物質を通り抜けられるニュートリノ以外の多くの素粒子が途中で無くなり、感度良く検出できるという。

今回の実験では従来のニュートリノ測定では検出できなかった高いエネルギー帯で、ミューニュートリノとタウニュートリノを検出できた。また物質との相互作用の強さも測定し、標準理論から予測された数値の範囲内であることを確認した。

今回の実験は運営費を含めても数億円程度の予算だという。千葉大学の有賀昭貴准教授は「一般的な素粒子実験と比較するとはるかに安いのが特徴だ。低予算でも従来にない検出法を提案できた」と話す。

今後は現在唯一観測できていないタウニュートリノの検出を目指す。今回の実験では従来の実験で捉えられなかった高エネルギー帯のニュートリノを検出できるため、未知の物理法則による影響を検出できる可能性がある。数年でデータ数を100倍に増やすという。

またFASER実験はニュートリノ以外の軽い素粒子の検出もできる可能性がある。もし未知の素粒子を検出できれば、素粒子の世界の理解が一気に発展する。

ニュートリノの観測装置では、岐阜県にあるスーパーカミオカンデなどが有名だ。従来のニュートリノ実験では、加速した素粒子を物質に当て、発生する中間子などの崩壊から出てくるニュートリノを捉えていた。人工的に発生するためデータは多いが、ニュートリノの持つエネルギーは小さい。

また自然に発生するニュートリノを探る研究も多い。ニュートリノは宇宙から来る高エネルギーの宇宙線が大気中の原子などと衝突し、発生する。非常に高エネルギーのニュートリノを観測することはできるが、観測数が少なく十分なデータがたまるまでに時間がかかる。

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