米半導体大手エヌビディアが近く投入する次世代GPU(画像処理半導体)を巡り、価格の見通しに市場関係者の関心が高まってきた。生成AI(人工知能)が普及するなかでデータセンター向けなどの引き合いが強く大幅高となりそう。DRAMなどメモリー市況もけん引する一方、製造を支える日本の素材の取引価格への波及は限定的なようだ。
性能向上、価格は1.4〜1.7倍との予想も
エヌビディアはAI学習に使うGPUで世界首位。「B200」をはじめ複数の次世代GPU「Blackwell(ブラックウェル)」の製品シリーズを投入する。
現行品との違いは性能と電力消費量だ。現行の「H100」は1つのGPU内に1つのGPUダイ(半導体チップ)を使うのに対し、B200では2つに増える。B200の上位機種「GB200」は2つのGPUに1つのCPU(中央演算処理装置)を接続する。同社によれば、GB200をベースにしたシステムの場合、現行のH100と比較して最大30倍高速、消費電力は最大25分の1に削減される。
同社は価格を公表していない。取引などによって価格は変わるが、英調査会社オムディアの南川明シニアコンサルティングディレクターはおおむねの目安として「B200の価格は現行の主力品であるH100(約350万円)の1.4〜1.7倍の500万〜600万円ほどになるのではないか」と予測する。
GPUが2つになるとともにチップ面積が大きくなるためだ。GB200の価格はさらに高くなると予想される。
エヌビディアからGPUを購入している日本のベンチャー企業の幹部は「前世代品でも値上がりしている。B200やGB200も引き合いが強まるにつれ、価格はさらに上がるのではないか」とみる。
日本の素材取引価格には恩恵少なく?
B200のGPUは、2つのGPUダイの周辺に最新型の広帯域メモリー(HBM)を並べて、1つのパッケージの中に納める(パッケージングする)ことでつくられる。HBMは短期記憶を担う「DRAM」を積層することで高速・大容量のデータ処理を可能にしたメモリーだ。日本企業はHBMの量産などに不可欠な素材や製造装置に強みを持つ。
経済産業省によれば、日本は半導体の主要素材で約5割のシェアを占める。住友ベークライトの半導体チップを保護する素材であるバッファコートはDRAM全体の約50%の世界シェアを持つ。同社は「DRAM向けに使う既存のバッファコートでHBM向けにも対応できる」と説明。HBMの生産数に比例して出荷が増えそうだ。
TOWAは半導体と外部を電気的に絶縁して封止するモールディング装置に強みを持ち、最先端のHBM向けでは世界シェアを独占。製造装置分野ではディスコなどがエヌビディアの躍進を支える。
ただ、これらの企業が受ける恩恵は限定的との見方もある。ある製造装置メーカーの幹部はGPU価格について、装置や素材の原価高による影響よりも「従来製品よりも付加価値が上がったことでGPU価格が押し上がっている」と説明する。
DRAMの市況を刺激
DRAM市況には影響が出ている。GPUに不可欠なHBMの引き合いが強まり、大手メモリーメーカーは生産に注力している。HBMには汎用DRAMよりも上位のDRAMを使う。「需要の多さに加えて、相対的な歩留まりの良さから、汎用DRAMよりも高価格・高収益で販売できる」(エレクトロニクス商社の担当者)。
この担当者によると、2025年1〜3月期のHBMの生産量は前年同期比で約2倍に膨らむ見通し。「DRAM全体の生産量はほぼ変わらないため、汎用DRAMの供給が絞られている」
一般的なパソコンやスマートフォンに向けた汎用DRAMの需要は足元でそれほど強くないが、汎用品の指標であるDDR4型8ギガ(ギガは10億)ビット品の大口取引価格は5月、3カ月ぶりに上昇した。
米国や世界の株式市場でも半導体・テック銘柄のけん引役になっているエヌビディア。半導体市況における存在感もさらに大きくなる可能性がある。
(井沢ひとみ)
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