理化学研究所の綿村直人客員研究員らは、アルツハイマー病の原因物質である「アミロイドベータ(Aβ)」を分解する新たな仕組みを発見した。マウスを使った実験で特定の神経細胞の活動を高める既存薬を投与すると、大脳に蓄積していたAβが減少した。治療薬の開発につながる可能性がある。

アルツハイマー病は脳内にAβとタウという2つの原因物質が蓄積する病気で、進行すると神経細胞が障害され、認知機能の低下や記憶障害を引き起こすとされる。

研究チームはこれまでの研究で、Aβを分解する酵素「ネプリライシン」を発見しており、この酵素の働きを制御する成分を調べた。培養した神経細胞にドーパミンと呼ばれる成分を与えたところ、ネプリライシンの働きが高まり、Aβが分解されていた。

生体内でも同じ現象が起きるかどうかについてアルツハイマー病を再現したモデルマウスで調べたところ、ドーパミンによって活動する特定の神経細胞を刺激すると大脳でネプリライシンの働きが高まることが分かった。Aβの分解が促され、量が減少した。

ドーパミンの機能を補う作用をもつ既存薬をマウスに投与したところ、大脳のAβの量が減少し、認知機能の回復もみられた。理研の綿村客員研究員は「広く使われる既存薬を応用できれば、治療費を安く抑えられ、経済的な効果も大きい」という。今後は大脳以外の領域でもAβを減らす効果があるか調べる計画だ。

スウェーデンのカロリンスカ研究所や名古屋市立大学などとの共同研究で、研究成果をまとめた論文は米科学誌「サイエンス・シグナリング」に掲載された。

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