ブラジルのリオデジャネイロの海に暮らすブラジルヒラガシラの体内から、水路にしばしば投棄される違法薬物が検出されたという研究結果が発表され、「コカイン・シャーク」が話題になった。

この現象は「多くのジョークを生んでいますが、事態はかなり深刻です」と、米テキサス州公園野生生物局の野生動物医であるサラ・ワイコフ氏は述べる。

「動物たちは、麻薬鎮痛剤のオピオイドや違法薬物だけでなく、避妊薬から抗生物質まで私たちが使用するあらゆるもので汚染されています」

もちろん、アヘンの原料となるケシからマジックマッシュルーム、発酵させるとアルコールになるブドウなど、違法かどうかにかかわらず、人は多くの薬物を自然から直接得ている。

そして、快楽を求めているかはさておき、鳥からゾウまで、野生動物も自然から薬物を摂取している。ここでは、興味深い例をいくつか紹介しよう。

ベリーを頬張るヒメレンジャク

大きな冠羽や黒いアイマスクのような模様など、印象的な羽毛で知られる北米の鳥であるヒメレンジャクは、数カ月にわたって果実だけを食べるという珍しい特徴を持つ。果実はエネルギー源として優れているが、熟しすぎた果物やベリーは目に見えない脅威となる。

天然の酵母が熟した果実を発酵させ、糖の分子をエタノールと二酸化炭素に変える。果実が腐り始めていなければ、食べても安全だが、ヒメレンジャクを酔わせているかもしれない。

人と同じように、酔っぱらったヒメレンジャクは反射神経が鈍く、判断力が低下している。そのため、補食されたり、車や窓ガラスにぶつかったりする可能性が高くなる。

「アルコールには神経抑制作用があり、神経系と反射神経を低下させます。人が酔っているときに起きると想像されることは、すべて動物にも当てはまります」とワイコフ氏は説明する。

ポーランドにあるポズナン生命科学大学の動物学者であるピョートル・トリジャノウスキー氏が主導した2020年の研究では、科学論文やYouTube動画を分析した結果、半野生動物やペットを含む55種の鳥がアルコールを飲んでいることがわかった。動画の多くは、オウムやカラスなどのいわゆる「賢い」鳥が人の飲み物を口にするというものだった。

「なぜ彼らはそうするのか? おそらく私たちがバーに行くのと同じ理由でしょう」と、トリジャノウスキー氏は話す。

アフリカゾウも果実に酔う

アフリカゾウがマルラの木の発酵した果実を食べて酔っぱらったという報告は、一般的な文献にも科学的な文献にもあふれている。ただし、ゾウの体は大きく、酔うためには大量のアルコールが必要であることを理由に、こうした報告の妥当性を疑問視する科学者もいる。

カナダにあるカルガリー大学の大学院生だったマレイケ・ジャニアック氏は、さまざまな種がどのようにエタノールを代謝するかを研究した。ジャニアック氏らが学術誌「Biology Letters」に発表した2020年の研究では、アルコール脱水素酵素の能力を変える遺伝子変異がさまざまな種で見られることが判明した。アルコール脱水素酵素は、エタノールの分解に関わる主要な酵素だ。

私たちとアルコールの蜜月関係を考えると当然かもしれないが、人は非常に効率よくアルコールを分解できる。私たちがウマやウシ、ブタより酔いにくいのはそのためだ。ジャニアック氏は、果実を食べる種の多くもエタノールを無毒化できることを発見した。これはおそらく、熟しすぎた果実にエタノールが含まれるためだろう。

アフリカゾウはアルコールを代謝しにくい遺伝子変異を持っており、「巨大な体でもマルラの果実で酔うことを示唆している」とジャニアック氏は述べる。とはいえ、「ゾウたちは快楽を求めているわけではない」とも言い添える。「ただ空腹なだけです」

「糖が存在すれば、エタノールは生成されます。そして、糖はエネルギーになります」とジャニアック氏は話す。「エタノールを消化できれば、腐った果実をもっと食べることができるかもしれません」

マジックマッシュルームを食べるトナカイ

ロシアのシベリアでは、トナカイ(カリブー)が幻覚作用を持つキノコであるベニテングダケと生息地を共有している。赤い傘に白の斑点が入っていることから、ベニテングダケはクリスマスとも関連づけられており、2018年の研究によれば、シベリアのシャーマンは「酩酊と幻覚」のために利用している。

毒もあるが栄養もあるベニテングダケをトナカイが食べていることが記録されており、トナカイは複雑な胃で毒素を中和している。

ベニテングダケを摂取することで、人のように吐き気や嘔吐(おうと)、見当識障害を起こしているかどうかは不明だ。

ツパイはアルコール入りの蜜を好む

タイやマレーシア、ボルネオ島では、7種のツパイがブルタムヤシの蜜を主食にしている。ブルタムヤシの蜜は急速に発酵し、アルコール度数3%以上の甘いシロップになる。

2008年の研究によれば、ヒメレンジャクと異なり、ツパイの場合、この高アルコール食の悪影響はないようで、中毒の兆候が見られることもない。

2020年には、ブルタムヤシの花粉を媒介するリスなどのげっ歯類も、アルコールの大量摂取に適応しているという研究結果が発表された。

動物たちは快楽のためにアルコール入りの植物を摂取している可能性もあるが、「最も重要なのはやはり栄養価だ」とトリジャノウスキー氏は考えている。

「これらの植物を食べることで、糖分やビタミン、そして、アルコールを摂取できるのです」

文=Carrie Arnold/訳=米井香織(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2024年8月10日公開)

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