英国の国際医学誌ランセットなどのグループは17日、政府が近く策定する日本の温暖化ガス排出削減の新目標に関して「気候と健康を守るために、野心的な目標を作るべきだ」とする提言を発表した。気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」で目指す、産業革命前から気温上昇を1・5度以内に抑える「1・5度目標」に沿った計画が必要だと強調した。
提言をまとめたのは、同医学誌が世界保健機関(WHO)などと作る「ランセット・カウントダウン」と呼ぶ組織だ。世界の科学者や医療従事者が120人超加わり、気候変動の健康への影響や必要な対策などをまとめている。
17日に出した提言は、人為的な大気汚染で亡くなる原因の約3割を石炭などの化石燃料の燃焼が占めている問題から「再生可能エネルギーの普及で、健康への有害な影響を避けられる」と記した。猛暑による2023年の日本の労働損失が年22億時間にのぼっていることにも触れて、排出削減の強化によって「健康や経済への影響を緩和するべきだ」と述べた。
また、温暖化で激甚になっている災害や熱中症などの対応に向けて、医療従事者や医療施設への十分な投資が不可欠であるとも強調した。従来、日本における温暖化ガスの排出削減の議論では健康への影響は「十分に考慮していなかった」と指摘した。提言では今後重視すれば猛暑のリスクや救急対応などに対して「効果的な戦略を作れる」としている。
東京大学の橋爪真弘教授は「(政府の)削減目標に医療の視点を取り入れることが、社会全体の気候変動対策を進める上で重要だ」とコメントした。
温暖化ガス削減に関する35年までの次期目標は、25年2月までに各国による提出が義務付けられている。政府は35年度に13年度比で60%減、40年度に同73%減を軸に新目標の検討を進めている。企業団体や科学界からは、より高い目標を掲げるべきだとする提言や声明も出されている。
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