三菱重工業の自動ピッキングサービスでは、ロボットアームがパレットの荷物を仕分ける

JR横浜駅から車で約30分。三菱重工業が運営するイノベーション共創施設「ヨコハマハードテックハブ(YHH)」では、同社が提供する自動ピッキングサービスの実演が行われている。倉庫内ではフォークリフトが棚からパレットを下ろし、搬送機が縦横無尽に運ぶ。いずれも無人だ。さらに「パレタイザー」と呼ばれるロボットアームがパレットから荷物を抜き取り、別のパレットに載せ替える。

三菱重工とグループ会社の三菱ロジスネクストは2022年9月、この自動ピッキングサービスの提供を始めた。物流倉庫の自動化システム「シグマシンクス」を無人のフォークリフトや搬送機、パレタイザーに接続することで、人の手を借りず、夜間でも作業できるサービスだ。

物流・運送業界は「2024年問題」を迎えている。トラック運転手の時間外労働時間は年960時間に制限されるほか、原則、1日当たりの拘束時間が13時間を超える運行は認められない。年間の拘束時間も現行の3516時間から3300時間に引き下げられる。

拘束時間の削減でカギを握っているのが、トラックが物流拠点で順番待ちをする荷待ち時間と荷物の積み下ろしにかかる荷役時間だ。運転時間に次ぐ長さになるからだ。

国土交通省の調査によると、荷待ち時間が発生するトラックの運行は全体の2割以上にもなる。荷待ち時間は平均1時間34分、荷役時間も平均1時間29分とされる。つまりトラックが物流拠点に3時間以上滞在するケースも少なくない。

政府も24年2月、物流総合効率化法の改正案を閣議決定しており、成立すれば、大手の荷主は荷待ち時間の削減に向けた計画策定が義務付けられる。計画が未提出の場合は罰金50万円を科すほか、不十分な場合には事業者名を公表する。また「物流統括管理者」の選任も義務付ける。

物流センターや倉庫での作業効率化が一層求められる中、三菱重工の自動ピッキングサービスに目をつけた1社がキリンビバレッジだ。22年11月から三菱重工と共同で実験を重ね、24年12月から海老名物流センター(神奈川県海老名市)に導入するという。

海老名物流センターの荷待ちや荷役時間を含むトラック滞在時間は、平均1時間程度になる。国交省が調査した平均時間よりは短いものの、飲料出荷の繁忙期となる夏期は荷物の処理が追いつかず、2時間を超えるケースもある。キリンビバレッジSCM部主査の矢野太介氏は「自動ピッキングサービスの導入によって、繁忙期でもトラックの荷待ち時間をゼロに近づけたい」と期待する。

物流センターの作業で最も時間の短縮が見込めるのがピッキング作業だ。これまでは作業員がパレットの重心が偏らないように手作業で荷物を配置していた。荷物の種類や量によっても配置が異なるので経験が必要になり、体力的にも負担が大きかった。

シグマシンクスには作業員へのヒアリング結果も学習させている。独自の最適化技術や複数の機器を連動させることで、自動化による効率化と処理能力を高めることができた。実証実験では導入前と比べて生産性が4割以上高まった。足元では屋外でトラックに荷物を積み込んだり、降ろしたりできる無人のフォークリフトの実証実験も行っており、三菱ロジスネクストの間野裕一社長は「開発は順調。近いうちにより効率的なソリューションを提供したい」と話す。

三菱重工以外も荷待ち時間などの削減に取り組む。パナソニックホールディングス(HD)傘下のパナソニックコネクトは8日、巨額買収した供給網(サプライチェーン)管理システムの米ブルーヨンダーと連携し、人工知能(AI)を活用して倉庫内の作業を割り当てるソフトウエア「タスク最適化エンジン(仮称)」を開発したと発表した。

ラピュタロボティクス(東京・江東)と業務提携しており、同社が展開する自動倉庫ロボットシステム「ラピュタASRS」と連動。ロボットと作業員の協働ができるようになり、荷物をトラックに乗せる順番に合わせて最適なピッキングの手順を振り分ける仕組みだ。荷待ち時間を最大5割削減でき、24年度中の商用化を目指す。パナソニックコネクト最高技術責任者(CTO)の榊原彰氏は「サプライチェーンにおける様々な社会課題を解決できる」と話す。

ラピュタロボティクスの自動倉庫ロボットシステムではモニターに最適な手順を表示し、作業員がそれに従って作業する

NX総合研究所(東京・千代田)によると、2024年問題の影響によってトラックの輸送力は30年には3割超不足する恐れがある。国内のサプライチェーンが揺らげば経済への足かせになりかねない。物流の安定はもちろん、さらなる生産性向上に向けたデジタルトランスフォーメーション(DX)などの取り組みが必要とされている。

(日経ビジネス 齋藤徹)

[日経ビジネス電子版 2024年3月19日の記事を再構成]

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