「あおり運転」というと、「ああ、クルマのね……」と思いがちだが、実は自転車のあおり運転(妨害運転)というものもある。そして自転車による危険運転も2020年6月30日から処罰の対象になっているのだ。
文/山口卓也、写真/写真AC
■自転車による“あおり運転”ってどんなもの?
2020年6月、道路交通法の一部改正により、今までは個別の交通違反として取り締まるしかなかったあおり運転に当たる行為を明確化。さらに自転車の危険行為として、新たに“妨害行為”が追加されたのをご存じだろうか?
あおり運転を取り締まる妨害運転罪には、道路交通法の条文に見られる「軽車両を除く」という一文は存在せず、“軽車両”である自転車も処罰の対象なのだ。
■自転車も妨害運転罪が適用される!
自転車への法規制としては、2015年6月からの「自転車運転者講習制度」により、次の14項目の危険行為が挙げられていた。
1.信号無視
2.通行禁止違反
3.歩行者様道路における車両の義務違反(徐行違反)
4.通行区分違反
5.路側帯通行時の歩行者通行妨害
6.遮断踏切立入り
7.交差点安全進行義務違反等
8.交差点優先車妨害等
9.環状交差点安全進行義務違反等
10.指定場所一時不停止等
11.歩道通行時の通行方法違反
12.制動装置(ブレーキ)不良自転車運転
13.酒酔い運転
14.安全運転義務違反
■自転車による妨害行為にあたる7つの行為とは?
1.通行区分違反
逆走などにより周囲の交通を妨害する行為
2.急ブレーキ禁止違反
不要な急ブレーキによって後続車に追突などの危険を与える行為
3.車間距離不保持
前方車両との車間距離を詰めて威嚇する行為
4.進路変更禁止違反
急な割り込みや後続車の前で蛇行運転をするなどで周囲に危険を及ぼす行為
5.追い越し方法の違反
前方車両の左側から無理に追い越すなどの行為
6.警音器使用制限違反
標識や標示によって指定されている場所や危険防止のためにやむを得ない場合を除き、無用に警音器を鳴らし続ける行為
7.安全運転義務違反
周囲の車両に不要に接近する幅寄せや急加速など
この自転車による違反行為を、運転免許を取得している我々が行った場合、行政処分を免れることはできない。つまり、自転車であってもあおり運転すると“クルマの運転もできなくなる”可能性大なのだ。
■自転車によるあおり運転(妨害運転罪)の罰則は?
上記の7つの違反を犯した場合の罰則は3年以下の懲役または50万円以下の罰金。そして、運転免許を取得している場合は違反点数25点が加えられて免許取り消しとなり、最低2年間の欠格期間となる。
さらにこの違反行為により著しく交通の危険を生じさせると、5年以下の懲役または100万円以下の罰金、さらに違反点数は35点が加えられて欠格期間は最低3年。
自転車であっても、運転免許取得者では非常に重い罰則ということがわかるだろう。
ただし、あおり運転の当事者が運転免許を持っていない場合は、上記のような違反点数の加算・欠格期間を設けられることはない。
しかし、この後に運転免許を取得する際、試験に合格しても欠格期間に相当する間は免許の交付を拒否される可能性がある。
■自転車によるあおり運転による実例
前述の7つの妨害行為のうち、筆者がクルマを運転中に遭遇したのが通行区分違反にあたる“逆走”と車間距離不保持にあたる“ドラフティング”である。
逆走はシティサイクル、ドラフティングはロードバイクによるものだった。
逆走の場合、筆者の左横をロードバイクが通過した……と思ったら、左前方からシティサイクルが走ってきた。シティサイクルは前方から走ってくるロードバイクを避けようとハンドルを左に切り、私の走る道路の真ん中近くまで進路変更! 突然、目の前に出てきたシティバイクに急ブレーキを踏んで事なきを得たが、相対する位置関係のため、ブレーキを踏み遅れていたら……。
ドラフティングとは、ロードレースなどで先行する選手の後ろにつき、自車の空気抵抗を大幅に低減させ、体力を温存するテクニック。その空気抵抗低減効果は時速30kmあたりから飛躍的に上がり、自車よりも大きなクルマの真後ろにピッタリつくことで、体力を温存しつつ高速巡行も可能になる。
この時の筆者のクルマは大型のワンボックスカーであり、おそらく真後ろの自転車乗りは完全には前方を確認できない状態。その状態で「もし、ここで自分の前に何かが飛び出し、急ブレーキを踏まないといけない状況になったら……」と想像してゾッとしたのを思い出す。
ともにありがちな事例であり、こちら側の対応が遅れたりすれば大事故につながりかねない。
シティサイクルに乗る人のなかには道路の右側通行を“逆走”と認識していない人もいるし、ロードバイク乗りのなかには他車(クルマやオートバイ、スポーツ自転車など)の後ろについて、空気抵抗低減による体力温存と高速走行をしたいと思う人もいる。
そもそもこれらの行為が“あおり運転”に該当することすら知らない人もいる。要は「そんなに悪いことなの?」な認識の自転車乗りが多いのも事実だ。
では、このような事例に遭遇した場合、我々はどうすべきなのか?
■自転車によるあおり運転に遭わないために&遭ってしまったら
こちらに過失はないと思っていても、交通弱者である自転車を引っかけたり、轢いてしまったりした場合は過失ゼロとはならない。
逆走を見かけた場合は、2車線の場合は周囲の安全を確認しつつ右側の車線に移動。そのタイミングがない、もしくは1車線の場合は後続車に停止の意思を示し、停止できたら即警察に通報。
ドラフティングの場合は、そもそも体力温存しつつ高速走行を望んでいる場合が多いので、こちらも徐々に減速するか停止→即警察に通報。一般道に最低速度はないので、こちらがノロノロ運転すると多くは先に進んでくれるだろう。
この実例以外でも、自転車であってもあおり運転はれっきとした道路交通法違反であることを私たちは認識すべきだし、加害者にも認識してほしい。
加害者にその認識がない、知っていても「知らない」という場合もあるので、やはりドライブレコーダー+ステッカーの設置は必須。「相手が悪いのになぜこちらが?」と思うかもしれないが、自分の身を守るための証拠を得るためにはしかたない。
なお、くれぐれも相手に仕返しを……など考えないように!
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