今じゃ到底考えられない、できないクルマCMといえば、「街の遊撃手」のキャッチコピーで記憶に残るFFジェミニ。そのCMはパリの街中をまるで恋人同士のようにダンスするシーンは衝撃的だった。50代以上のおじさん世代にとっては懐かしいCM。そんなFFジェミニは、現在、イルムシャー、ハンドリング・バイ・ロータス含め、中古車市場で現存しているのだろうか?

文:ベストカーWeb編集部/写真:ベストカーWeb編集部

■実車を使ったパリでのロケはよく許したな

赤と白のジェミニがパリのメトロの駅を走行している

 CGでちょちょいのちょいとなんでもできてしまう世の中になってしまったが、1980年代は当然、そんなものはなかった。携帯電話だって1987年以降急速に普及していった、そんな時代。

 そんななか、1985年5月に登場したいすゞジェミニのTVCFは誰もが度肝を抜かれた。「街の遊撃手」というキャッチコピーで、わずか15秒のTVCFでパリのエッフェル塔前で空を飛んだり、2台のクルマがまるで社交ダンスを踊っているかのようにパリの街を駆け抜けていくのだ。

 FFジェミニはオシャレでキビキビとした走りのクルマとして開発され、このキビキビした走りから想起されたのが野球の遊撃手だったことからジェミニの走りのイメージとマッチしたという。

 当時はCG技術はあるわけもなく、質感を実現するためには現地ロケを敢行、実際にパリで撮影を行ったというのは凄い。

 ジェミニのイメージであるキビキビとした走りを表現するのに、2台のクルマがパリの街中を駆け抜けながら、ペアとなってダンスを踊るように走り、最後にポーズを決める。というアイデアは、広告代理店のプロデューザーが通勤途中で見かけた展示してあるクルマから生まれたという。

 クルマがダンスを踊るように走る。アイデアは素晴らしいが、実現可能なのかどうかという疑問がスタッフに残った。

 しかしそれを簡単に払拭したのが、フランスに本拠を持つ、レミー・ジュリアン アクションチームだった。映画「007」シリーズでカーアクションを担当するこのチームの存在なくして、このTV-CFの成功はありえなかった。

 黄色と赤のジェミニが2台揃ってスピンターンをしながら走る作品やこの2台がエッフェル塔前をジャンプしている作品。名曲「雨に歌えば」をバックに黄色と緑のジェミニがスピンしながら走行する作品。青と黄色のジャミニ4台がパリの街を駆け抜けて最後ジャックナイフでポーズを決める作品。

 極めつけは1986年の正月にオンエアされたジェミニダンスシングシリーズ。あけましておめでとうございます。の文字をバックに赤と黄色のジェミニが片輪走行を行う作品や赤と白のジェミニがパリのメトロの駅を走行し、出入口から出てくる作品などもある。なんと3年間の間で14本も作られたというから驚きだ。

 2代目のFFジェミニはその名前の通り、駆動方式をFRからFFに変更し、117クーペ以来、17年ぶりのオリジナル設計のモデルとなっている。

 ボディサイズやエンジンを小型化しているが、駆動方式の変更により居住性と取り回しの良さを実現した。ボディタイプは4ドアセダンと3ドアハッチバックへと変更されている。

 搭載されているエンジンは、1.5L、直4ガソリンをはじめ、1.5L、直4ディーゼルエンジン。1.5L、直4ターボ、1.6L、直4DOHCなどを追加した。また、トランスミッションは1986年にコンピューター制御の5速AT「NAVi5」を搭載するなど注目された。

 1987年のマイナーチェンジでフロントマスクを大きく変更。つり目と呼ばれるフォグランプ一体型のヘッドランプを採用。フロントグリルのデザインも変更されている。そして、この時にFFという冠が取れてジェミニと改名した。

■イルムシャーやハンドリング・バイ・ロータスも懐かしい

いすゞ ジェミニイルムシャ―

 2代目ジェミニはドイツのチューニングブランドである「イルムシャー」やイギリスのスポーツカーメーカー「ロータス」が手がけた「ZZハンドリング・バイ・ロータス」をラインアップするなど走りに磨きを掛けたモデルも販売された。

 1989年に2度目のマイナーチェンジを行い、外観が変更された。モデルラインナップも豊富で、イルムシャーやZZハンドリング・バイ・ロータスといったスポーティモデルをはじめ、キャンバストップを採用するC/Cユーロルーフなど個性的なグレードを用意していた。

 そして1990年3月にフルモデルチェンジを行い、3代目ジェミニへとスイッチした。1992年10月期決算においても再び大幅な経常赤字を記録したことによって、いすゞは資金回収の目処が立たない乗用車生産から撤退し、ジェミニの自社生産も1993年7月限りで終了となった。

 当時のイルムシャー、ハンドリング・バイ・ロータスとともに、人気が高く、特にハンドリング・バイ・ロータスはRECAROシートとセンスのいいインテリア、ほどよい固さのスポーティな足回りですばらしくよかった。

 現在中古車市場に流通しているのはたった2台。1台は4ドアの5速MTのディーゼルターボ車で69万9000円、もう1台はハンドリング・バイ・ロータス、5速MT車で285万円。つい10数年前は100万円以下だったことを記憶しているが、300万円にまで届きそうなところにいるとは驚きだ。

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