欧州では小排気量ターボが主流になり、好評だ。好燃費とパワーを兼ね備えるそれに、正直日本は遅れをとっている。国産車と輸入車、それぞれの過給エンジンのこれまでと現状を片岡英明氏がチェック!(本稿は「ベストカー」2013年4月26日号に掲載した記事の再録版となります)
文:片岡英明
■国産車のターボ
日本はエンジンの排気量によって自動車税の税額が異なる。昭和の時代は、2Lを超えて普通車になってしまうと一気に自動車税が高くなった。そこで限られた排気量で最高の性能を得ようと努力するようになる。
排ガス対策が一段落すると、技術者たちは次の目標にエンジンの高性能化を掲げた。次世代のパワーソースとしてエンジニアが着目したのが「ターボチャージャー」と「スーパーチャージャー(以下、SC)」を使った過給エンジン。
ターボは使い捨てにしている排気エネルギーを利用して高速で排気タービンを回し、それと一体になったコンプレッサーで吸入空気を圧縮する過給システムである。
これに対し、クランクシャフトの回転を利用した過給システムがSCだ。どちらも充填効率を大幅に高めることで、排気量を変えることなく高出力と豊かなトルクを得ることが可能になる。
記念すべき最初の搭載車となったのは日産のセドリックとグロリア(430型)である。
2LのL20型直列6気筒SOHCエンジンにターボを組み合わせた。登場したのは1979年秋だ。オイルショック直後だったから燃費を悪化させないように気を遣い、10モード燃費は2LのNAエンジンと大差なかった。
■エンジン+過給器の組み合わせ。21世紀に一気に花開く
燃費に配慮しながら登場した過給システムは1980年代、一気に仲間を増やす。
が、その後パワーとトルク重視の方向となり、燃費は二の次に。パワー&トルクのあまりの高性能ぶりに上限280psの自主規制が敷かれたほどだ。最高出力の上限が決まってしまったため、1990年代は最大トルクの数値を競うようになった。この規制は日本の自動車メーカーの技術レベルを大きく引き上げている。
筒内直接噴射のガソリンエンジンや可変バルブタイミング機構など、新しいメカニズムを積極的に実用化。例えばマツダはミラーサイクルエンジンにSCを組み合わせた。これらのエンジン技術は、21世紀に一気に花開くわけだ。
その過給エンジンが、再び排ガス対策と燃費を意識するようになるのは21世紀に入ってから。高性能を売り物にする20世紀のターボカーは、厳しくなった排ガス規制を乗り切れずに生産中止に追い込まれている。
過給器を手放すクルマが急増したが、三菱は直噴のGDIガソリンエンジンにターボを装着して、新しい過給エンジンの時代の扉をこじ開けた。2005年秋にはマツダスピードアテンザがベールを脱ぐ。これはターボエンジン搭載車として初めて星4つ獲得のクリーンターボだ。
■ミッションとの相性重視のニッポンのターボ
2007年は日本のターボ史においてエポックを画した年になった。この年の秋、三菱はランサーエボリューションXを、日産はGT-Rを発売する。
どちらもターボ装着を前提にパワーユニットを開発した。トランスミッションはツインクラッチを用いたゲトラグ製の6速、2ペダル式マニュアルが主役だ。
伝達効率が高いミッションで、次に入るギアが待ち構えているからトルクが途切れることなく俊敏な変速を行なうことができる。ランエボXのツインクラッチSSTは、ギャランフォルティスにも採用され、好評だ。
ランエボXとスバルのインプレッサWRX STIにはMTもある。だが、高性能ターボといえどもMT車は減少傾向だ。スバルも2.5Lの水平対向DOHCターボを積むインプレッサのAラインには5速ATを組み合わせた。
さらには低回転域から太いトルクを発生し、最大トルクも4L級のガソリンエンジンを凌ぐディーゼルターボ、これも主流はAT。
クリーンディーゼルの先陣を切ったパジェロは5速AT、X-トレイルは6速ATだ。また、2012年に登場したマツダCX-5とデリカD:5のディーゼルターボも6速ATを採用。
そんなATの流れにはあるが、ディーゼルターボは低回転から分厚いトルクを発生し、扱いやすいので6速MTとの組み合わせも悪くはない。相性がいいことは、X-トレイルと最新のアテンザが証明している。
そして、これから増えてきそうなのがダウンサイジングした直噴エンジンに過給器、そして無段変速機のCVTを組み合わせる手法だ。欧州ではとっくに一般的になっている、
小排気量過給エンジンに関して、日本メーカーが欧米に遅れをとっているのは明白。とはいえ、日本に小排気量過給エンジンがないわけじゃない。
スバルレガシィとフォレスターはターボとCVTを組み合わせ、余裕ある走りと優れたエコ性能を実現した。
日産のノートは1.2の3気筒エンジンにSCの組み合わせだ。ターボよりCVTとの相性がよく、タイムラグを感じることなくトルクが立ち上がるメリットを備える。
■輸入車のターボ
20世紀、日本は世界一のターボ王国だった。が、21世紀になって排ガス規制が厳しくなると過給器離れが進み、その数は激減。日本とは正反対に、ヨーロッパでは21世紀初頭から過給器旋風が吹き荒れ、ダウンサイジング過給も一般的になった。
過給器に目を向けるようになった理由は、日本と同じように排ガス規制と燃費規制が厳しくなってきたから。ヨーロッパは地球環境にやさしいクルマをディーゼルエンジン搭載車ととらえ、普及させた。ガソリンエンジンと比べてCO2(二酸化炭素)の排出量が少ないからだ。
が、いいことばかりじゃない。今、中国の北京で問題になっているPM(粒子状物質)とNOx(窒素酸化物)の排出量は、ガソリンエンジンよりはるかに多い。早急に排ガス問題をクリアしないと死活問題だった。
そこで注目したのが過給器だ。高精度のコモンレール式電子制御インジェクターを使って超高圧で微粒子噴射し、これにターボなどの過給器を組み合わせて希薄燃焼するとPMやNOxの発生を抑えることができる。
■ダウンサイジング過給に踏み切る、ドイツの2社
積極的に過給器を使い、大成功を収めたのがVWとアウディだ。VWは大排気量のNAエンジンを主役にしていた。
が、2005年にこれに見切りをつけ、ダウンサイジング過給に踏み切る。小排気量の直噴エンジンに過給器を組み合わせた「TSI」戦略の始まりだ。
ディーゼルで実績を積んだ手法をガソリンエンジンに応用し、ターボとSC、過給圧の違いによって出力とトルクを自在にコントロール。ツインクラッチを用いたレスポンス鋭い「DSG」を組み合わせ、異次元の走りを手に入れている。
VWの過給器は優れたドライバビリティに加え、良好な燃費が自慢だ。1.4Lターボ、これにSCを加えたツインチャージャーも設定している。可変バルブタイミング機構やリフト機構も導入。ライバル勢も追随したから一気に華やかになった。
ボルボやBMW、ベンツなどは1.6Lの直噴エンジンにターボで武装し、これにツインクラッチの2ペダルMTや多段ATを組み合わせている。アルファロメオジュリエッタも同様だ。1.4Lのエンジンにターボ、5速ツインクラッチを採用。
かくして、ダウンサイジング過給は瞬く間に欧州全土に広がった。プジョーは1.6Lエンジンにターボを装着し、ATを組み合わせて余裕ある走りと良好な燃費を実現。
驚かされるのはフィアット500とクライスラーのイプシロンに搭載された2気筒ターボだ。強烈な個性の持ち主で、度肝を抜かれる。
ちょっと前までは6気筒やV8のイメージが強かった高級車メーカーまでもが、4気筒のダウンサイジング過給に積極的に取り組んでいるのだから驚く。
■まとめとして
高性能化のためにいち早くターボやSCを採用し、瞬く間にフルライン過給器の時代を築いた世紀末の日本。全精力を注いで開発に没頭したから、エンジンだけでなくターボや制御系など、多くの分野で技術的な蓄積を得ることに成功している。
が、バブルが弾け、コスト優先になっている間に、欧州勢はダウンサイジング過給に目覚めた。今では高級SUVのレンジローバーや高級車のジャガーまでもが2Lの直噴エンジンにターボを採用している。
第2ラウンドの現在は、欧米の自動車メーカーが一歩リード。高性能ターボに固執していたニッポン勢は後れをとったカタチだ。だが、日本には有形無形のノウハウがある。今後、HV車やミラーサイクルエンジンで培ってきた高度な技術も過給器に応用できるだろう。
さらに、軽自動車を持つ日本はダウンサイジングなんてお手のもの。次期コンパクトカーの本命と目される3気筒のターボエンジンだって得意だし、ATやCVTの技術力も非凡だ。これから先の追い上げに期待しようじゃないか。
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【番外コラム】軽自動車のターボ車
軽自動車は1998年に現在の規格になった。エンジンは660ccのままで、上限は64psとなっている。登録車と同じように10年ほど前に直噴ターボが登場したが、すぐに姿を消した。エコに徹したミライースやアルトにはターボの設定がない。
だが、多人数乗車や荷物を積むことが多いワゴンRやムーヴなどのハイトワゴン、背の高いN-BOXやタントなどにはターボ車を用意している。
今後、排気量を小さくしたダウンサイジングターボが登場するか興味深い。
(内容はすべてベストカー本誌掲載時のものです)
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