ボルボトラックスは水素を燃焼する「水素エンジン」トラックの商用化を目指すことを発表した。2026年に顧客の元での公道試験を開始し、2030年までに商用ローンチする計画だ。
大型商用車の脱炭素はバッテリーEVだけでは難しく、内燃機関の活用を含めたより現実的なソリューションを模索する動きが広がっている。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/Volvo Trucks
水素エンジン車を2026年に試験開始、2030年までにローンチ
2024年5月23日、ボルボトラックスは水素を燃焼して動力とする内燃機関(水素エンジン)のトラックを開発しており、その商用化を目指していることを明らかにした。
水素エンジンを搭載したトラックの公道での試験を2026年に開始し、2030年より前に商用ローンチを目指す計画だ。いわゆる「グリーン水素」で走るトラックは、ボルボがネットゼロという目標を達成し、顧客の脱炭素を支援する上で重要な一歩とする。
化石燃料に代わって再生可能エネルギーで製造されたグリーン水素は、トラック輸送の脱炭素を実現するための一つの方法だ。長距離輸送や充電インフラが限られている地域での運行、バッテリーを充電する時間が無い場合など、水素の活用がバッテリーEV(BEV)より適している輸送用途はいくつもある。
ボルボは2026年から水素エンジンを搭載したトラックの顧客のもとでの試験を開始し、2020年代中(2030年まで)に商用化を目指す。なお、実験室や車両を使った(テストコースでの)試験は既に進行中とのことだ。
ボルボはその他の代替駆動手段にも積極的な投資を行なっている。BEVと燃料電池EV(FCEV)はトラックの脱炭素の本命とされるが、バイオガスやバイオディーゼル、HVO(水素化植物油)などの再生可能ディーゼル(従来のディーゼルエンジンでそのまま利用できる再生可能燃料)も、ネットゼロに向けた柱の一つとなっている。
新たに水素エンジンが加わり、内燃機関による持続可能な輸送の可能性が拡がった。これらの代替燃料トラックにより、BEVなどが不得手とする分野を補完する。
ボルボトラックスでプロダグト管理&品質を担当するヤン・ヘルムグレン氏のコメントは次の通りだ。
「水素エンジントラックには従来と同じように内燃エンジンが搭載されます。燃焼するのは水素ですが、パフォーマンスや信頼性はディーゼル車と同等です。その上でウェル・トゥ・ホイールのCO2排出量(エネルギーの製造を含む全体的な排出)は、ゼロとなるかもしれません。既に市場投入から数年が経過した弊社のBEVを補完する素晴らしい商品となるでしょう。
大型車による輸送を脱炭素化するにあたって、様々な種類のテクノロジーが必要となることは明らかです。グローバルなトラックメーカーとして、弊社はお客様に多くの脱炭素ソリューションを提供します。お客様は用途や利用可能なインフラ、グリーンエネルギーの価格などを考慮して代替手段を選択することができます」。
水素エンジン&水素トラックのファクト
水素はディーゼル燃料(軽油)のように自然着火しないため、点火用の燃料が必要になる。HVOなどの再生可能ディーゼルを点火材とし、なおかつグリーン水素をメインの燃料とした場合、CO2排出量はネットゼロとなり、欧州連合(EU)のCO2排出基準においても「ゼロ・エミッション車」と認められる。
(当然ながら、軽油(化石燃料)を点火材とした場合、完全なゼロ・エミッションではない)
ボルボトラックスの水素燃焼エンジンは「高圧直接噴射(HPDI)」を特徴とする。これは水素を噴射する前に少量の点火材(軽油やHVOなど圧縮点火する燃料)を噴射し、その燃焼により水素に着火する技術だ。HPDIの利点はエネルギー効率の高さと、全体的な燃料消費量が少ないこと、そしてエンジン出力の向上だ。
同技術はウェストポート・フューエル・システムズが開発しているものだが、ボルボグループはHPDIの活用に向けて同社と合弁会社を設立し、2024年の第2四半期中に事業を開始すると発表している。
そのほか、水素と水素トラックは次のような特徴を持っている。
・水素を燃料とするボルボのトラックは、輸送の種類にもよるがディーゼル車と同等の航続距離を実現する
・水素の燃焼によるCO2の排出量は非常に少なく、EUのCO2排出基準においては「ゼロ・エミッション車」に分類される
・水素燃焼エンジンは微量ながらNOx(窒素酸化物)とPM(粒子状物質)を排出するため、CO2以外の排出はゼロではない
・水素はFCEVでも利用可能。FCEVは車載の燃料電池で発電し走行する車両で、水以外は排出しない
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