普通免許で運転できるいすゞの小型トラック「エルフmio(ミオ)」は、今夏にも本命・ディーゼルモデルの発売を予定している。このほどいすゞが公開したエルフmioベースの俗にいう「ハコ車」は、普免ドライバーが物流の一翼を担っていく時代における、驚きの発想の1トン積み配送用トラックだった。
文・写真/トラックマガジン「フルロード」編集部
サイズは同等だが大幅に軽いエルフ
いすゞエルフといえば、日本でもっとも使われている小型トラックだ。その大半は「2トン車」と俗称されている積載量2~3トンクラスで、かつては普通運転免許があれば運転できたが、現行免許制度(2017年3月12日以降の免許取得者)から、準中型免許以上の運転資格が必要になっている。
エルフmioは改正免許制度に対応すべく、「現行の普免で運転できるエルフ」として開発されたクルマで、車格的には積載量1トンクラスとなる。
エルフmioのシャシー本体サイズは、実はエルフ2トン車(の標準キャブ・標準ボディ仕様)とあまり変わらないが、車両総重量(GVW)は3.5トン未満で、2トン車のGVW5トンまたは6トンより大幅に軽くなっている。普免で運転できるクルマが、GVW3.5トン未満に限られるからだ。
小トラでもっともメジャーなバン型車
いっぽう「ハコ車」というのは、直方体の荷台を載せたトラックの俗称で、フォーマルな業界用語では「バン型車」と呼ばれる特装車のひとつである。
バン型車はさらに様々なタイプに分かれており、2トン車の場合、スチール/アルミ混合の骨格にアルミ外板を張った箱形ボディとリア観音ドアを備えた、「一方開ドライバン」という荷台形態がメジャーである。このリア一方開に加えて荷箱側面にドアを追加したものも普及している。
ドライバンという荷台は、小口宅配業務や商品・製品の配送業務、原材料・資材の運搬業務といった、物流および輸送用途で大量に用いられている。また、レンタカーとして一般的に貸し出されるのもドライバンで、非常に身近な「働くクルマ」だといえる。
そしてエルフmioは、そういう身近な2トン車ベース・バン型車の一部を置き換えることを想定したクルマである。遠からず多数派となるオートマ限定普免ドライバーでも運転できるトラックは、将来の経済活動や生活面において、必要不可欠になると考えられているからだ。
AT普免ドライバーを考慮した新発想「軽量バン」
さる5月9~11日に開催されたジャパントラックショー2024で、いすゞはエルフmioのドライバン架装モデル「軽量バン」を初めて公開した。正式発売時には、完成車(シャシーメーカーが荷台付きで販売するトラックのこと)として展開する予定という。
エルフmio軽量バンの外観は、アルミコルゲート(波板)の外板を持つごく普通のドライバンだが、その荷箱の幅と高さは、2トン積ドライバンはもちろん、いままでの標準的な1トン積ドライバンよりあえて小さめに設定し、トラック独特の車両感覚を抑えたのが最大の特徴だ。
小型トラックのバン型車は、ドライバーが乗るキャビン部分より荷箱の幅が大きいのが一般的(「キャブ幅段差」と呼ぶ)で、最大で200mm(左右各100mm)も段差があるクルマも珍しくない。また、車両全高は3m前後にもなる。そのため、乗用車やミニバンはもちろん、キャブオーバー型ワンボックスのハイエースやキャラバンとも違う車両感覚が必要になってくる。
そこでエルフmio軽量バンでは、キャビン幅1695mmに対してキャブ幅段差がわずかプラス50mm(左右各25mm)の車両全幅1745mm、車両全高を250mmほど低い2750mmとし、感覚的に取り回しやすく、かつロールセンター高も抑えて、ドライバン運転に不慣れなAT普免ドライバーでも馴染みやすいサイズとしたのである。「運ぶ性能」を重視してきたトラックにとって、これはかなり思い切った発想の転換だ。
軽く仕上げられたドライバン・ボディ
軽量バン実車と併せてスペックの一部も公表され、車両説明ボードには全長4840mm×全幅1745mm×全高2750mm、荷室サイズが内法長3150mm×内法幅1640mm×内法高1895mm、最大積載量1150kgと記されていた。
いすゞ最新の排気量1.9リッター軽量直噴ディーゼル・インタークーラーターボ付エンジン「RZ4E型」を採用するとはいえ、排ガス後処理にリーンNOx触媒、DPF、尿素SCR、酸化触媒をフル装備、しかもADAS(先進ドライバー支援システム)も搭載して、さらに荷箱を架装しながら、GVW3.5トン未満で積載量1150kgという能力を得ているのは驚異的である。
もちろんシャシーが軽いこともあるが、「軽量バン」という名称が示すとおり、いすゞとパブコ(三菱ふそう系トラック車体メーカー)がエルフmio用として共同開発した新型バンボディが、かなり軽く仕上がっているのだ。
そのひとつが、荷箱の内張の一部を通常のベニヤより大幅に軽い「プラパール」(気泡緩衝材プチプチを芯材として使う樹脂パネル)としたことで、いすゞ完成車への採用は初となる。フロア材も、軽比重の竹集成材を採用した。
もうひとつが、荷箱の躯体構造の軽量化だ。床下の縦根太のないサブフレームレス構造を採用して、シャシーフレームへのマウントは、スペーサを介して直接、横根太を支持する構造となっている。もちろん荷台の耐久性や剛性は重要な性能で、その点も充分確保しているとのことだった。
ディーゼル「フラットロー」シャシーも初公開
これまでエルフmioディーゼル車は、後輪シングルタイヤ車のみ公開していたが、トラックショーで公開した軽量バンは後輪小径ダブルタイヤの「フラットロー」をベースシャシーとしたもので、このシャシーも初お目見えだ。
フラットローは、シャシーフレームの頂面地上高がもっとも低いタイプである。前後輪でホイール径およびタイヤ外径が異なり、タイヤサイズは前輪が185/75R15に対し後輪は145/80R13となる。軽量バンの床面地上高は未公表だが、関係者によると785mm(計算値)とのこと。これはエルフ2トンのドライバン完成車と比べ、105mmも床が低いことになる。
また、軽量バンのベースシャシーとしては、前後同径・後輪ダブルタイヤの「フルフラットロー」シャシーも設定する。こちらはシャシーフレーム頂面高が少し上がり、バンボディの躯体がフレームレス構造ではなく、縦根太を有するオーソドックスな構造になるとのことで、床面地上高は平均的な値に落ち着くようだ。
全車オートマ限定免許で運転可能
エルフmioのバリエーションやグレード展開、ADAS装備もはっきりしてきた。GVW3.5トン未満の1トン積トラックという性格から、シャシーは標準キャブ・標準ホイールベースのみだが、キャビンはシングルキャブとダブルキャブに加えて、新たにシングルエクステンドキャブの「スペースキャブ」も展開する。
シャシーフレーム高さは、前述のフラットローとフルフラットローの2種を設定する。これまで後輪シングルタイヤ車は慣例的に「高床」と称していたが、市販車ではフルフラットロー表記へ統合することになった。実力的にも妥当とみられる。
ディーゼルエンジンは、前述のRZ4E型のみで最高出力120PS/3000-3200rpm・最大トルク32.6kgm(320Nm)/1600-2000rpmを発生。トランスミッションはトルコン6速ATのみとなる。実は、欧州向けGVW3.5トン車型だとマニュアル車(GVW3.5トン車専用の軽量型ギアボックスを搭載)もあるのだが、日本は乗用車のAT比率が高いことから、エルフmioはオートマ車のみの展開とした。もちろんAT限定普通免許取得者が運転できる。
なお、バッテリーEVモデルのエルフmio EVでは、2トン車と同じセントラルドライブ式のZF製交流モーターを搭載するが、最高出力90kW・最大トルク37.7kgm(370Nm)で出力のみ減格した仕様となっており、高電圧バッテリーは40kWh(20kWh×2基)モデルとなる。こちらもAT限定普免で運転可能だ。
標準グレードの仕様装備は、2トン車系のベーシックグレード(ST)に近い内容となっているが、メーカーオプションでSGグレード相当の装備が選択できるという。このあたりは価格政策もあるようだが、そろそろドライバーに快適で充実した「職場」を提供して当たり前の時代ではないかと思う。
ADASは、車線逸脱警報(LDWS)、ふらつき警報、先行車発進お知らせ機能、誤発進抑制機能、衝突被害軽減/回避支援ブレーキ(プリクラッシュブレーキ・直進時のみ)を標準装備し、オプションでブラインドスポットモニター、プリクラッシュブレーキ(右左折時を含む)が装備できる。
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