運転中にウインカー点滅させたい時、国産車ではハンドル右側のレバーを動かす。しかし、輸入車では左側なのをご存じだろうか? 今回は悪名高き(?)左ウインカーレバーについて考えていきたい。

文:長谷川 敦/写真:トヨタ、ヒョンデ、写真AC、AdobeStock、BYD、Newspress UK(アイキャッチ画像:Vahe329416634@AdobeStock)

■どうして左にウインカーレバーがあるのか?

マニュアルトランスミッション(MT)車での変速チェンジ。変速しながらカーブを曲がる時には右側にウインカーレバーがあるほうがそれぞれの操作がしやすい
 

 イギリスを除く欧州の多くの国やアメリカは、日本とは反対にクルマが道路の右を走る。だから必然的にクルマの左側が運転席、つまり左ハンドル車になる。そして左ハンドル車の場合、ウインカーレバーはハンドルの左側に装備されている。

 ウインカーレバーの操作だけを考えると、実はハンドルの右にあっても左にあっても本質的な違いはない。

 しかし、これがほかの動作に連動させるとなると話は別だ。現在の日本では、クルマの変速操作をクルマ自身が行うオートマチックトランスミッション(AT)が主流で、海外でもその傾向は強い。

 だが、ATが普及する前のクルマでは、ドライバーがクラッチペダルと変速レバーを操作してギヤチェンジを行っていた。だから右ハンドルのクルマでは左手で車体中心、または中心付近にあるシフトレバーを操作することになる。

 そのため日本では空いている右手でウインカーレバーを操作するようになった。

 といっても、日本と同じ(むしろ歴史から見ると日本が同じなのだが)右ハンドルのイギリス車では、ウインカーレバーはハンドルの左に装備されるのが一般的だ。

 その理由は、ISO(国際標準化機構)の規格では「ウインカーレバーはハンドルの左側」とされているから。日本のJIS(日本工業規格)ではこの逆で、ウインカーレバーの位置はハンドルの右側と決められている。

 以前のイギリス車は右ハンドル+右ウインカーレバーがポピュラーだったが、現在ではISO規格に合わせた仕様が標準になっている。

 本来は日本でもISO規格に準拠するべきなのだが、右ウインカーレバーの歴史は長く、それを変えると混乱が生じるということで現在でも右ウインカーが使用されている。

記事リンク

  次の記事

輸入車はなぜ右ハンドルなのに「左ウインカー」なのか? BYDとヒョンデはしっかり右ウインカーで本気を出してきた!

■輸入車は右ハンドル+左ウインカーが主流!

 かつて日本の道路を走っていた左ハンドルの外国車は、裕福なオーナーのひとつのステータスでもあった。

 とはいえ、左側通行の国で左ハンドル車を走らせるのはなにかと不便が多い。実際、駐車料金を払う際に、支払施設が左側にない場合はクルマを降りて支払いを行う必要もあった。

 もちろん、交差点を曲がる時には右ハンドル車のほうがラクなケースが圧倒的に多い。

 そのため、日本に輸入される外国車も日本仕様の右ハンドルで作られることが多くなり、輸入車=左ハンドルというイメージは過去のものになった。

 現在の日本国内を走る輸入車のほとんどが右ハンドルといっていい。では、ウインカーレバーの位置はどうなっているのだろうか?

 正解は「左側が多数派」だ。

 ISO規格で左側が標準化されていて、イギリスやオーストラリアなど、右側通行の国でも左ウインカーレバーが普通なのであれば、日本に輸出する右ハンドル車が左ウインカーレバーなのは自然なことだ。

 そして海外から見れば、そこまで巨大ではない日本市場に向けてわざわざ右ウインカーレバー車を作るのはコスト的にも厳しいものがある。

 こうした事情により右ハンドルでも左ウインカーレバーのクルマが増え、方向指示を行おうとしてうっかりワイパーを作動させてしまうというアクシデントが発生するのである。

■郷に入っては郷に従え、日本の事情に合わせた海外メーカー

中国のBYDが販売するATTO3。中国では左ハンドル車だが、日本に輸出する際には右ハンドル+右ウインカーレバー仕様で製造して出荷される

 先に説明したように、輸入車の多くは右ハンドルであっても左側にウインカーレバーがあるが、いくつかのメーカーは日本仕様の右ウインカーレバー車を製造している。

 まずは中国の新進メーカーであるBYD。日本国内ではまだメジャーとはいい難いBYDだが、これから日本市場にアピールする必要があり、日本向けの輸出車では右ハンドル+右ウインカーレバーを採用。

 ちなみに中国は右側通行の国なので、わざわざ日本市場に合わせて右ウインカーレバー車を用意したことになる。

 BYDのモデルでは、ATTO3(アットスリー)とDOLPHIN(ドルフィン)、これから発売されるSEAL(シール)の3モデルが右ハンドル+右ウインカーレバーに設定されている。

 一度は日本市場から撤退したものの、体制を変更して再び日本上陸を果たした韓国のヒョンデもまた、日本仕様のクルマは右ハンドル+右ウインカーレバーだ。

 現在ヒョンデはIONIQ(アイオニック)5、KONA(コナ)、NEXO(ネッソ)の3車種を日本国内展開しているが、いずれも右ハンドルかつ右ウインカーレバーと、日本の事情に合わせている。

 こうしたことから、BYDとヒョンデの2メーカーが日本を重視しているのがわかる。

 マツダロードスターをベースにしたイタリア・FIATのアバルト124スパイダーは、れっきとした輸入車であるが、ベースモデルのハンドル回りをそのまま使っているので、右側にウインカーレバーがある。

■国産なのに左にウインカーレバーがある?

 トヨタが17年ぶりに復活させたスポーツカーのGRスープラ。2019年に登場した現行のDB型は、右ハンドルの日本車なのに左側にウインカーレバーが装備されているのをご存知だろうか?

 これはスープラがドイツBMWのZ4とプラットフォームを共用し、製造はオーストリアのマグナ・シュタイア社が行っていることに起因する。

 だからトヨタのクルマということで油断すると、いきなりワイパーを動かしてしまってバツの悪い思いをするかもしれない。

 日本のメーカーから海外に輸出されるクルマは、左ハンドル仕様の場合は左ウインカーレバーに設定されている。

 このあたりはISO規格に準じていて、左側通行の国に向けて輸出するクルマ、つまり日本と同じ右ハンドルのままであっても左ウインカーレバーに変更するケースが多い。

 日本国内での右ウインカーレバーに慣れている人が、いきなり左ウインカーレバー車に乗ると戸惑うことは多い。

 しかし、すぐに左手でのウインカーレバー操作を自然に行えるようになる。ウインカーレバーの位置が異なる複数のクルマを頻繁に乗り替えるのでなければ、それほど深刻な問題にはならないだろう。

 だからこそ、今後も日本国内では左右ウインカーレバーの両車が共存を続けていくはずだ。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。