クルマと道路は切っても切り離せないもの。交通ジャーナリストの清水草一が、毎回、道路についてわかりやすく解説する当コーナー。今回は、各地で発生したシールドトンネル事故の要因について考察する!

文/清水草一、写真と資料/国土交通省、NEXCO東日本、東京外環プロジェクト、フォッケウルフ

■多発するシールドトンネル事故

 近年、長大シールドトンネルの建設現場で事故が多発し、高速道路の重要路線の開通がベタ遅れになっている。建設費もどんどん膨らんでいる。

 日本の高速道路は、予定路線の9割が完成し、建設の最終段階に入っているが、最後の最後に来て苦戦となっている。

 道路に限らずシールドドンネル工事全体で見ると、ここ10年間で10件以上の大きな事故が発生しているが、そのうち近年発生した道路用シールドトンネルの大きな事故は、以下の通りだ。

●2018年12月 広島高速
トンネル工事でシールドマシンのカッター部が損傷、工事が中断。

●2019年1月 圏央道南側区間(横浜湘南道路)
シールドマシンが地下に残置されていた鋼材に接触して破損、1年7カ月停止。

●2020年10月 東京外環道
大深度シールドトンネル直上(調布市)で陥没事故が発生し、東京地裁が工事の中止を命令。緩んだ地盤の改良のため、土地の買い取り・家屋の取り壊しが続いており、本線シールドトンネル南半分の掘進は止まったまま。

●2021年8月 圏央道南側区間(横浜環状南線)
シールドマシンを回転させるモーターが故障して、約1年掘進が停止。圏央道の開通予定目標は、2022年度から2025年度に延期された後、「2025年度の開通も困難」と発表された。

 圏央道南側区間と東京外環道は、首都圏3環状高速に残されたミッシングリンクで、大きな期待がかけられているが、ともに開通時期が見通せない状況に陥っている。

首都圏三環状高速の完成は、地域のドライバーの悲願だが……

記事リンク

前の記事

高速SAPAの[EV充電器]は初心者にとっては地獄! 性能表示ナシなんてありえない!【清水草一の道路ニュース】

次の記事

スイスで実現する「地下自動モジュラー物流網」は日本でも可能なのか?【清水草一の道路ニュース】

■時期的な要因があった工事費の膨張

 工事費の膨張も問題だ。東京外環道に関しては、2009年の段階では1兆2820億円の予定だったが、2016年の事業見直しで1兆6000億円になり、2020年にはさらに増えて2兆3575億円になった。

 しかもこの金額は、陥没事故直前の試算。現在は開通できるかどうかもわからないが、開通できても、さらなる膨張は確実だろう(圏央道南側区間は1兆420億円→1兆3620億円へ3200億円増加)。

 これらの事故が起きる直前、2015年に全線開通した首都高C2品川線は、五反田出入口の出水事故で開通が1年遅れたものの、シールドトンネル工事は順調に進み、技術の改良によって工事費の大幅削減にも成功している。当初4000億円の予定だった事業費は、最終的に3019億円まで縮減された。

 栄光の時代を迎えたかと思われた日本のシールドトンネル工事に、いったい何が起きているのだろう。

圏央道南側区間のシールドトンネルイメージ図。現在のところ開通予定年度は発表されていない

 工事費の膨張については、時期的な要因もある。

 C2品川線が着工されたのは、道路四公団が民営化された直後の2006年。談合が排除されたうえ、技術の改良によるコストダウンに対してインセンティブ制度が導入され、着工後もゼネコン側がコストダウン策を模索する動機が生まれた。

 この時期は、公共事業削減の最盛期で、大手ゼネコンは仕事がなく困っていた。C2品川線の競争入札では、予定価額の約6割という安値入札が発生するなど、ダンピング合戦状態になっていた。

 にもかかわらず、工事がしっかり行われたのは、日本の建設業界が蓄積してきた職人芸がしっかり注入されたからだろう。現場を取材するたびに、困難な工事に立ち向かう彼らの仕事ぶりに敬服するしかなかった。

 一方、圏央道南側区間や東京外環道のシールドトンネル工事で重大事故が起きたのは、状況が当時とは真逆になったことが関係しているのではないだろうか。

■道路建設長期化に追い打ちをかける建築資材の高騰

 高速道路の長大トンネル工事には、長い工期が必要だ。入札から完成まで、順調にいっても10年かかる。その間に人手不足が深刻化。建設業界では、熟練技術を持つ職人が引退する一方で、厳しい労働環境や公共事業削減の波もあり、後継者が思い通りに育っていないと推察される。

 そもそも近年は、景気の回復とともに公共事業にうまみがなくなり、競争入札における「不落」(落札者なし)が頻発している。かつての利権など雲散霧消。公共事業は割に合わない仕事になりつつある。

 そこに建設資材等の高騰が追い打ちをかけた。シールドトンネル工事を落札したゼネコンにすれば、「やめときゃよかった」が本音かもしれない。現場が疲弊するのは当然だ。

外環道の東名JCTにおけるランプシールド建設現場のようす(2024年6月現在)

 近年は、あらゆる工事の完成が予定より遅れて当たり前になってきた。高速道路建設も、日本の老化の波をモロに受けている。これは長期的な流れなので、簡単に止めることはできないだろう。ドライバーは状況を理解して、気長に開通を待つしかない……のだろうか?

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。