ZFは2024年9月に開催されるIAAトランスポーテーションに先駆けて、恒例の技術デモンストレーション「グローバル・テクノロジー・デイ」で、さまざまな新技術を事前公開した。

 乗用車から商用車、そして産業用車両まで、広範な専門知識を有するZFは、各業界を横断する独自の技術ポートフォリオを展開する。電気駆動用のソリューションを提供するいっぽう、内燃機関を活用したハイブリッドなど、技術に対してオープンな姿勢も見せている。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/ZF Friedrichshafen AG

技術プレビューで公開されたZFの最新テクノロジー

乗用車・商用車・産業用車両の「クロス・ディビジョン」での開発がZFの強みだ

 2024年6月27日、自動車コンポーネント大手のZFは、ドイツで「グローバル・テクノロジー・デイ」を開催した。9月の「IAAトランスポーテーション2024」(世界最大規模の商用車・運送業界の展示会)に先立って最新技術を事前公開する、恒例のプレビューイベントだ。

 脱炭素、シャシー、安全性、デジタル化などの分野でイノベーションを紹介し、大型商用車向けには新しいハイブリッドトランスミッションとなる「トラクソン2ハイブリッド」が明らかにされた。

 商用車では世界最大のサプライヤーとなっているZFだが、乗用車・商用車・産業用車両のいずれにおいても一貫したアプローチを採用し、部門を横断してテクノロジーを適用できることが同社の強みだ。

 自動車業界は、CO2の削減という世界的な目標のために電動化を進めているが、最近は乗用車だけでなく商用車の世界でも想定よりゆっくりした歩みになっている。特にバッテリーEVの需要が停滞したことで、メーカーは価格競争にさらされているようだ。

 ただしZFは、幅広い製品ポートフォリオにより市場の変化に柔軟に対応しているといい、トラクソン2ハイブリッドをはじめ、テクノロジーに対してオープンな姿勢を見せている。

 ZFによると長期戦略計画が奏功し2023年の商用車部門は市場平均を超える20%の二桁成長となり、産業技術部門とともに非常に好調だという。

 また、部門を横断した技術適用も相乗効果を生み出している。例えば乗用車向けに開発した車両のモーションコントロール技術「cubiX」を商用車にも拡げた。

 同技術は仮想ドライバー(自動運転システム)とハードウェア(車両側のアクチュエーターなど)をつなぐインターフェースだ。自動運転車は特に商用車で巨大市場に成長することが期待されるいっぽう、車体の大きさや重量などからより緻密な制御が必要となり、相応に難易度が高い。

 今回公開された中で、もう一つの重要なイノベーションが自動車の開発にAI(人工知能)を導入した「ZFアノテート」だ。

 クラウドベースのこのサービスは、先進ドライバー補助システム(ADAS)やSAEレベル2からレベル5までの自動運転(AD)システムの開発に革命を起こすという。センサーデータにAIが自動でアノテーション(ラベル付け)することで、システムの開発速度は10倍に、コストは80%削減可能だという。これも乗用車と商用車の両方に適用可能だ。

ゼロ・エミッションには柔軟な道筋?

ワールドプレミアの「トラクソン2ハイブリッド」を説明するZFのライアー氏

 いっぽう、ZFの商用車部門(CVSディビジョン)は、新型のハイブリッド・トランスミッションを開発し、輸送の脱炭素に向けて商用車技術の開発ペースを上げている。

 同社のAMT(自動化機械式トランスミッション)の新型となる「トラクソン2ハイブリッド」は、商用車用のハイブリッド技術により運送会社が内燃機関のアドバンテージを維持しながら排出量を大幅に削減することを可能にするという。

 脱炭素技術として期待されたバッテリーEVはやや停滞しているが、ZFは乗用車用のハイブリッド技術の開発でも豊富な経験を持っている。これを商用車向けの実用的なソリューションに適用する研究開発も行なっている。

 乗用車と商用車など、モビリティの異なる領域から技術を導入できることは、ZFの大きなアドバンテージとなっており、ZFのCVSディビジョンでトップを務めるピーター・ライアー氏は次のように話している。

 「トラクソン2ハイブリッドの開発においては、弊社の部門間の相乗効果を活用し、商用車の脱炭素を効率的に進めるために実用的な技術を創出することで、お客様のニーズに迅速かつ柔軟に対応できることを証明しました。

 変化し続ける業界のニーズを満たすだけでなく、製品と製造の両面において柔軟で、また、変革のペースを設定できるような強力で信頼できるパートナーとしてのZFの地位はより確かなものになるでしょう」。

 もちろん、次世代の商用車用電動ドライブラインとして、バッテリーEVや水素燃料電池車などに向けた様々なソリューションも提供している。

 電動化キットはセントラルドライブ方式の「セトラックス2」及び「セトラックス2デュアル」や(「セトラックス(CeTrax)」シリーズはいすゞ自動車の「エルフEV」も採用)、電動アクスル方式のアクストラックス2、アクストラックス2デュアル、アクストラックス2LFなどがあり、メーカーがゼロエミッションの商用車を製造するために必要となる重要なコンポーネントを提供している。

 電動アクスルのアクストラックス2はトレーラ(被けん引車)にも組み込むことが可能で、ZFでは内燃機関のトラクタと電動トレーラを組み合わせることでハイブリッド化するという従来車にはないコンセプトも提案している。また、電動トレーラをBEVトラクタと組み合わせて、全体の航続距離を延ばすことも可能だ。

 こうしたコンセプトは現在当局の承認待ちだが(トレーラに駆動力を持たせるには法改正も必要)、燃費を最大16%、プラグイン方式なら最大40%改善するという。

 さらに、新たなイノベーションとしてブレーキと電気駆動の協調プログラムがテクノロジー・デイで披露された。駆動系とEBS(電子制御ブレーキ)コントロールを最適化することで、制動時のエネルギー回生率を向上し車両の走行距離が延びるほか、よりスムーズな発進が可能になるそうだ。

デジタルソリューションとAIの導入

AIによるZFアノテートも乗用車から大型トラックまで広く対応する

 先述の通り、車両のモーションコントロールの「cubiX」は商用車にも対応した。これは、仮想ドライバーの操作を「翻訳」して、車両のアクチュエーターに動作コマンドを伝達するもの。車載器の実装を単純化し、モーションコントロールの自動化(自動運転化)とソフトウェア定義自動車(SDV)への道が開ける。

 乗用車部門で蓄積したレーダーやカメラなどの技術を活用することができるのもCVSディビジョンの強みで、グループによる技術共有の恩恵を示す一つの例となっている。

 AI(人工知能)に関してはZFのフリート管理プラットフォーム「スカラー」の意思決定・効率改善ツールにすでに導入されているが、先進ドライバー補助システム(ADAS)や自動運転(AD)システムの開発を加速する「ZFアノテート」が世界初公開された。

 これらのシステムでは車両が周囲を正確に認識し安全な運転操作につなげるために、多数のセンサーが必要となる。例えばカメラ、レーダー、ライダー、超音波センサーなどのデータを用いて車両は3次元で環境を認識している。

 センサーデータはコンピュータに渡されデジタル処理されるため、そのデータは絶対的に正しいものでなければならない。機械学習において「グラウンドトゥルース(Ground Truth)」と呼ばれるデータだ。データの信頼性が高いほど精度も向上するが、ここで活躍するのがZFアノテートだ。

 車両が記録したデータはクラウドにアップロードされ、AIがオブジェクトをマーク・分類し、属性と一意のIDを付与する(=アノテーション)とともに、移動体を追跡する。こうしてグラウンドトゥルースの環境モデルを構築する。

 アノテーション後のデータはADASやADシステムのテストやトレーニングに活用される。類似のシステムは主に2次元(2D)のアノテーションを行なうが、ZFアノテートは3次元(3D)対応のAIソリューションとなる。

 正確なデータを得るために、これまで人間が手動でアノテーションを行なっていたが、そのために膨大な時間とコストがかかっていた。AIを導入したことでこの作業が大幅に高速化し、またクラウド上で24時間365日稼働するため、検証プロセスは最大10倍高速化し、コストは最大で80%低いそうだ。

 ZFのテクノロジー・デイは同社の技術プレビュー(事前公開)イベントで、より詳細な製品・技術等は2024年9月17日から22日にかけてドイツ・ハノーバーで開催される予定のIAAトランスポーテーション2024で発表されるだろう。

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