訴訟大国の異名を持つアメリカは、日本人の一般感覚とはちょっと違う。交通事故の被害者が乗った救急車を追跡して、加害者に損害賠償金を請求するようもちかける「Ambulance Chaser(直訳すると“救急車追っかけ”)」と揶揄される弁護士が存在するほどだ。そんなアメリカで、ちょっと気になる自動車にまつわる話があった。

文:古賀貴司(自動車王国)/写真:ベストカーWeb編集部/アイキャッチ:VTT Studio@Adobestock

■え? 自動車保険ってそこまでカバーされるの?

アメリカで2番目に大きい保険会社とされるGEICO社のHP。いくら裁判大国アメリカとはいえ、この訴えは…初めてのケースだったのではないだろうか。

 2021年、ミズーリ州のとある女性(M.Oとしか公表されていない)が元交際相手を訴えた。なんと男性が所有する車内にて性行為に及んだ後、HPVに感染したため、自動車保険の契約に基づいて「対人賠償」の支払いを受けるべきだという訴えだ。その額、なんと100万ドル。

 訴状によると性行為は2017年までに少なくとも1回で、男性は自身のHPV感染を知りながらコンドームを使用しなかったというから「故意」もしくは「重過失」が問われそうだが、争点はあくまでも男性の加入している自動車保険の対人賠償対象となりうるか否か、である。

 男性が加入していたGeico社の自動車保険における対人賠償内容では以下のような記述があるそうだ。「人身傷害とは、結果として生じる病気、疾病、死亡を含む、人の身体的傷害を意味する」。“自動車事故に起因する”うんぬんが抜けている曖昧さが、この訴訟のポイントであるようだ。

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■「自動車通常使用」にカーセックスが含まれるのか、どうか

 裁判所は当初「車内での合意による性的関係は、対象保険の意味する自動車の“使用”には当たらない」としてM.Oの訴えを棄却するも、“仲裁人”がM.Oに損害賠償とHPV罹患、そして脳腫瘍(HPV罹患との因果関係は不明)のために520万ドルを支払うべきだと判断を下した。

 もちろん、Geico社は上告するも裁判所は棄却。カンザス州法によると、保険証券に曖昧な点があれば加入者に有利なように解釈するよう定められているのだという。

 そして、男性の保険証券はカンザス州で発行されたものだった。Geico社は連邦控訴裁判所に訴え先日、口頭弁論が行われた。争点を要約すると…、カーセックスは自動車保険がカバーする「自動車通常使用」に含まれるか否か、だ。

こちらが控訴時に発行された実際の書類。

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■上告が棄却されて今後の行方が気になるところ

 M.O側の弁護士は判例として持ち出したのは、ハンティングに行った男性がトランクから銃を取り出す際、誤射により負傷し自動車保険によってカバーされたケースであった。これまた実にきわどい判例が存在したものだ…。

 一方、Geico社の弁護士は「自動車保険の対人賠償が、一般保険の対人賠償にすり替えられている」と主張している。

 もしM.O側の主張が認められれば、「車内で食べたハンバーガーで食中毒になった」「車内エアコンで風邪をひいた」なんて訴訟も出てくるような気がするのだが…。

 行く末は引き続きフォローするが、何はともあれ、みなさまも契約書の細則はよく読むべし。

予想もしないところでスポットを浴びてしまった不幸なヒョンデ ジェネシス。

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