二輪用ラジアルタイヤを筆頭に、シリカ、デュアルコンパウンドといった現代のタイヤに求められる先進技術は全てミシュランが世界初開発してきた。1889年の創業から今まで、ミシュランの足跡はタイヤだけに留まらず、バイクの進化そのものと密接に結びついている。

 ラジアルタイヤを軸に、その130年に及ぶ歴史を紐解いてみたい。

  文:沼尾宏明 Webikeプラス  

時代を変えたラジアルタイヤ、その原型は1930年代から存在

ラジアルタイヤ(1983年 世界GPに初投入)
シリカコンパウンド(1992年 同上)
デュアルコンパウンド(1994年 同上)

 驚くべきことに、現代のバイク用スポーツタイヤを支える3つの技術を全てミシュランが初めて実用化している。もしこれらの技術がなければ、現在のような高性能スポーツバイクは存在せず、レースの世界においてはタイムが全く違っていたのは確実だ。

 とりわけラジアルタイヤは大きく時代を変革した。ミシュランが初の二輪用ラジアルタイヤを世界GPに投入したのが1983年。そして公道向け市販ラジアルタイヤを初めてリリースしたのが1987年のことだった。

 しかし、ミシュランによるラジアルタイヤの原型はなんと1930年代後半から存在。1946年には四輪用ラジアルタイヤの特許を申請し、1951年には四輪の市販車に純正装着された。そこから二輪用の開発まで30年以上の歳月を要したが、いずれにしてもミシュランの高い技術力と先見性が窺える。

 

 

     

創業は19世紀、バイク用タイヤはナント1897年に発売

 ラジアルタイヤの話を始める前に、まずは創業期のエピソードを簡単に振り返ろう。当時からミシュランは革新的な技術を続々と開発していたのだ。

 ミシュランは1889年にフランスで創業。アンドレ・ミシュランとエドワール・ミシュラン兄弟が叔父の会社を引き継ぎミシュランに改名した。当初からゴム製品を扱っていたが、タイヤにフォーカスしたきっかけはダンロップ製タイヤとの出会いだった。

 空気入りタイヤはダンロップが1888年に自転車用として世界で初めて実用化したと言われる。ミシュラン兄弟はこれがパンクして困っているサイクリストを見過ごせず、一晩かけて修理。エドワールは修復後に空気入りタイヤの乗り心地に感動し、開発を決意した。

 1891年、世界で初めて着脱可能な空気入り自転車用タイヤを開発したミシュランは、パリ~ブレスト間往復レースに参戦し、2位に8時間の差をつけて優勝。空気入りタイヤをより身近な存在とし、移動時間の短縮にも繋がるイノベーションをもたらしたのだ。

 1885年には、自動車用として世界初の空気入りタイヤを開発。そして1897年(明治33年)にはミシュランのカタログに「モーターサイクル」(英語でバイクの意)という用語が初めて登場し、バイク用タイヤが発売された。これは1903年創業のハーレーダビッドソンよりも先。さらに1898年の第1回パリモーターショーで同じフランスのプジョーが「プジョーモトシクル」を発表した時期よりも早い。

 ミシュランはそもそも“モーターサイクル”という言葉をメジャーにした立役者とも言えるのだ。

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1983年、初のラジアルタイヤで走るスペンサーが王座に!

 1928年にはバイク用タイヤ「ミシュラン コンフォート ビバンダム」を発売。さらに構造や素材の研究を重ね、1935年には現在のバイク用タイヤに通じるトレッドパターンを採用した「ミシュランフレッシュドール」と「ミシュラン“ZIGZAG”」を発売した。

 レースにおいては、1973年にマン島TTの最高峰クラスで優勝。翌年には世界グランプリに初のスリックタイヤを投入し、1977年に全クラス制覇を達成した。

 

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 そして1983年。世界GP500クラスに初めてラジアルタイヤを投入し、フレディ・スペンサーがタイトルを獲得する。

 ミシュランが四輪用ラジアルタイヤの特許を申請したのは1946年。1951年にはラジアルタイヤを純正装着した最初の量産車、ランチア・オーレリアB20を発売した。一方の二輪用ラジアルタイヤの開発が本格スタートしたのはその30年後、1981年のことだった。ラジアル技術を二輪用タイヤに転用することがいかに困難か、物語っていると言えるだろう。

 

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スペンサー「ラジアルタイヤは私のキャリアで最も重要なタイヤ革新だった」

 そもそもラジアルタイヤとは、内部構造の骨格となるカーカスプライを回転方向から90度の角度で放射状(ラジアル)に配置したもの。また、合成繊維や金属製のベルトなどを組み込み、接地面が安定している。また、従来のバイアスタイヤに比べて熱の蓄積が少ないため、ゴムが柔らかく保たれ、コーナリング時のグリップが向上。バイアスタイヤに比べて安全性、快適性、燃費を大幅に改善できる。

 実は、ミシュランがラジアルタイヤをレースで初めて導入したのは、ロードレースではなく、1981年のトライアル選手権。SWMを駆るジル・ブルガがミシュランのラジアルタイヤを履いて優勝を果たす。1983年にはランキングトップ5のライダー全てがミシュランのラジアルライダーで独占され、「ラジアルでないと勝てない」とまで言われた。

 1983年、世界GPに初投入された際は後輪にのみラジアルタイヤを装着。スペンサーは勝利を重ね、当時の最年少タイトル奪取に至る。なお、前後輪にラジアルタイヤを装着し、初めて優勝したライダーは翌年のランディ・マモラだ。

 さらに1985年、未だWGP史上唯一のダブルタイトルをスペンサーが獲得するが、その栄光にミシュランのラジアルタイヤが貢献したことは言うまでもない。

スペンサーは語る。
「ラジアルタイヤの導入は、私のキャリアの中で最も重要なタイヤ革新だった。ラジアルタイヤは、グリップ、フィードバック、そして耐久性を与え、モーターサイクルデザインの他の側面にも影響を与えている。ラジアルタイヤについて最初に気づいたのは、急コーナリング時のグリップと安定性が格段に向上していること。レースで常に心がけている再加速が早くできるようになった」

 

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GP投入からわずか4年後にラジアルタイヤを市販化

 ラジアルタイヤの技術はすぐさま市販タイヤに応用され、1987年に世界初の二輪用市販ラジアルタイヤ「ミシュランA59X」と「M59X」が発売される。

 

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 当時のリリースでは次のように説明されており、大型スポーツツアラー向けの性格とわかる。

「モーターサイクルの性能向上は、従来のタイヤ設計の限界、特に発熱の問題を浮き彫りにしました。レースから収集したデータに基づいて設計・開発されたミシュランのラジアルタイヤは、重量が軽く、低温で作動する。大型ツーリングバイクのために、ミシュランはグリップ、ハンドリング、快適性の向上というライダーの要求だけでなく、道路要件も満たすタイヤを製造しています。
また、何千キロも持続するパフォーマンスを提供するために、ミシュランのエンジニアは接地点の安定性を最適化することに注力しました。つまり、A59XやM59Xがあれば、ライダーは安全性と楽しさのどちらかを選ぶことなく、より遠くへ、より長く旅することができるのです」

 四輪用ラジアルタイヤが登場した後、主要タイヤメーカーはミシュランに追随した。36年の時を経て、バイク用ラジアルタイヤでも同様の流れが起きたのはご存じのとおりだ。

 なおラジアルタイヤは、車体のねじれ剛性の面でも有利。レーサー、市販車ともにバイクそのものの技術的改良が進む原動力となった。

ウエット性能とグリップを両立するシリカを1992年から導入

 ケイ素とは、水晶や石と同様の物質のため、タイヤのゴムと均一に混ぜ合わせることは非常に困難。しかしミシュラングループの基礎研究プログラムによって実現し、1992年シーズンの世界GP500クラスに初めてシリカを主成分とするタイヤを投入した。特にウエット路面で行われるレースで圧倒的な強さを見せ、新たな覇権時代の幕開けとなった。

 1999年にはシリカを用いた市販タイヤ「ミシュランパイロットスポーツ」をリリース。現在では多くの公道向けタイヤがシリカを配合するまで一般的となり、スポーツ向けタイヤをはじめ、ライフを重視しつつ雨の日にも強いツーリングタイヤなどに採用されている。レース用に関してもシリカ配合のウェットタイヤが採用され続けているのが現状だ。

 

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センターとサイドで異なるコンパウンドを1本のタイヤに融合

 続いて、1994年に登場した三つ目の革命がデュアルコンパウンドテクノロジー(2CT)だ。

 2CTが登場する以前は、タイヤ一本に同じコンパウンドが使用されてきた。一方、2CTはショルダー(サイド部)とセンター部のラバーコンパウンドを使い分けることで、最適な特性が得られる。

 例えば、直進中に接地するセンターには、急加速や減速時にかかる強い力に耐えられるよう硬めのコンパウンドを使用。一方、コーナリング時に接地するショルダーにはそれほどストレスがかからないため、柔らかめのコンパウンドでグリップ力を向上可能だ。

 ミシュランが世界GP500クラスにデュアルコンパウンドテクノロジーを導入したのは1994年。前述のシリカと合わせ、1994~1998年に5年連続チャンピオンに輝いたミック・ドゥーハンの勝利に貢献することとなった。

 そして2005年のプロダクションレース向けタイヤ「ミシュランパワーレース」から市販品にフィードバックを開始。グリップと耐久性を兼備するデュアルコンパウンドは今やメジャーな技術となり、ライダーの走りを支えている。もちろんミシュランでも2024年発売のPOWER 6やPOWER GP2には2CT+が採用されている

 

【まとめ】常勝レースの技術を市販品にフル注入、バイクの進化に貢献してきた

 圧倒的な技術革新により世界GPの最高峰クラスでは、1981年から2006年までミシュラン使用のライダーがほぼ全てチャンピオンを獲得してきた。例外は1984年と1991年のみなので、まさに驚異的な戦績である。2008年をもってミシュランはGPを撤退したが、2016年に復帰。再び数々の栄光を打ち立て続けている。

 これまで見てきた通り、レースの世界で培われた技術は市販タイヤにも遺憾なく還元されてきた。ミシュランの技術がなければ、現在のバイクはここまで進化していなかったに違いない。

 ミシュランは1889年の創業以来「モビリティの継続的発展に貢献する」をミッションに掲げてきた。バイクを取り巻く環境は大きく変わろうとしているが、今後もバイクをより安全に、便利に、楽しくする革新技術の開発に期待したい。

 

詳細はこちらのリンクよりご覧ください。
https://news.webike.net/parts-gears/367750/

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