“クルマ好きの聖地”としても世界的に有名なコースが、ドイツ・ニュルブルクリンクに位置する「ノルドシュライフェ(北コース)」だ。全長約20km、高低差300m、コーナー数172にもおよぶ世界最長の類を見ないコースは世界中のファンたちに親しまれるだけでなく、その過酷さから自動車メーカーの開発現場として日々様々なクルマが走っている。
NLS耐久シリーズ 第4戦ノルドシュライフェはドライバーのテクニックがコース攻略を左右する、現在では数少ないトラディショナルなコース。別名“緑の地獄”とも呼ばれるほどその環境は過酷であり、ひとたびレーシングラインを外せばあっという間にガードレールの餌食になることも。それゆえ、ドライビングスキルを試す難攻不落の環境として、天国でもあり地獄でもあるという二面性の性格をもつことが、唯一無二の魅力としてニュルが愛される理由だろう。
そんなニュルでいま、年間を通じて開催されているのが「NLS耐久シリーズ」だ。そこでチャンピオン獲得を狙い、日本代表として孤軍奮闘中のチームがある。それが「TOYO TIRES with Ring Racing」である。
NLS耐久シリーズ 第4戦TOYO TIRES with Ring Racingは「TOYO TIRES(トーヨータイヤ)」がサポートするワークスチーム。マシンはトヨタ『GRスープラ GT4 EVO』(#170、#171)の2台体制で、数多くの輝かしい実績をもちニュルから15分ほどの場所にファクトリーを構える「Ring Racing」とのタッグを組んで参戦する。装着されるタイヤは「PROXES Slicks(ニュルブルクリンクスペック)」で、技術開発主体のプロジェクトとして5年目の挑戦だ。
PROXESブランドアンバサダーを務める木下隆之選手ドライバー陣ではニュルマイスターとしてもお馴染みのPROXESブランドアンバサダー・木下隆之選手(#171)が参戦。目指すはSP10クラスのチャンピオンだ。そこで、今期6戦目となったNLS4の戦いを振り返っていこう。
チャンピオン獲得の可能性もあるNLS4、練習日のアクシデントでモータースポーツの怖さを改めて実感
NLS耐久シリーズ 第4戦8月3日、4日に開催されたNLS4。好調のトーヨータイヤ陣営は、ライバルの結果次第ではチャンピオン獲得となる可能性を有し戦いに挑んだ。残り2戦を有利に進めるためにも、少しでもポイントを積み上げておきたいところだ。
3日にプラクティス、4日に予選/決勝と慌ただしいスケジュールの中開催されたNLS4は、予定通り3日の夕方にプラクティスがスタート。しかし、セッション終了間際に約20分程度を残して赤旗中断となってしまった。
NLS耐久シリーズ 第4戦原因はパドックで起きた作業中の不運な爆発事故だ。幸いにも犠牲者が出ることはなかったが、安全面の意識も高まりつつある中、改めてモータースポーツの恐ろしい側面を感じさせる出来事であった。Ring Racingのメンバーだけでなく、パドックの全員がショックをうけたが、主催者の判断により決勝日のレースは予定通り開催されることが決定。しかし、サーキットには重々しい雰囲気が漂っており、チームメンバーにも普段のような笑顔は少なく決勝日のセッションを迎えることとなる。
チーム全員が前を向いて一致団結、しかし神様の悪戯でレースは全く予測不能な展開に…
NLS耐久シリーズ 第4戦昨晩の出来事を受け、TOYO TIRES with Ring Racingは朝一に全員を招集したミーティングを実施。改めてモータースポーツが危険であるということを忘れずに臨むこと、そしてチャンピオンを賭けた戦いに集中して挑むということで意識を統一し、再び一致団結してスタートした。予選ではトラフィックも多い中2台ともに着実にタイムを記録していく。#170は4番手とまずまずのポジションにつけたが、#171はセッション終盤にマシントラブルが発生し7番手からのスタートとなった。
NLS耐久シリーズ 第4戦12時のレーススタートにむけてグリッド上で準備を整えていく各マシン。NLS4はGPコース(ショート)+ノルドシュライフェのコース設定のため、長いフォーメーションラップに向けて11時40分ごろに隊列が動き始める。ところが、雨がにわかにコース上へと落ち始めた。8月のニュルの天候変化はドラスティックで、朝方に霧が出たと思ったら10分後には晴れたり、日中もスコールのような雨が降ったりと予測不可能。まるで神様に悪戯をされているかのような様相だ。
NLS耐久シリーズ 第4戦フォーメーションラップを終え無事にスタートしたものの、2周目に差し掛かる時点で一気に雨脚が強くなる。各車スリックタイヤを装着している状態だったため、レースコントロールはレース続行を危険と判断。赤旗中断となり、レースは6時間から4時間へと短縮された状態でのリスタートが宣言された。
NLS耐久シリーズ 第4戦トーヨータイヤ陣営の2台もこのにわか雨で足元をすくわれ、両車ともにレーシングインシデントでマシンを損傷。特に#171はかなりの修復が必要な状態となり、リスタートが危ぶまれる状況となった。しかし、鍛え抜かれたメカニックチームが本領を発揮。急ピッチで補修が行われたGRスープラ GT4 EVOは、ギリギリでレース再開にこぎつけることに成功した。
結果的に#170はピットのトラブルもありポジションを下げ4位でフィニッシュ、#171は最後尾からの追い上げとなり6位フィニッシュで、チャンピオン獲得は次戦以降へ持ち越しとなった。
課題は“気温変化に対する安定性”、もう1段階完成度を上げるべく熟成を進めていく
TOYO TIRES with Ring Racing Uwe Kleen監督急激な天候の変化やアクシデントなど、非常にタフな週末となったNLS4。TOYO TIRES with Ring Racing の代表を務めるUwe Kleen監督に話を伺った。
「今週末はとても複雑なレースウィークでした。金曜日に起こったショッキングな事故の影響でチームメンバーも悲しみが深く、そこから気持ちを立て直すことは非常に困難な状況でした」
NLS耐久シリーズ 第4戦「しかし、予選までには全員が持ち直し、まずは問題なくセッションが終えられたことに安心しました。決勝レースも序盤からドラスティックな天候の変化があり、1周目終了時に赤旗で中断、その際には2台ともマシンにダメージを負っており、特に#171は大きなクラッシュに巻き込まれてしまいました」
NLS耐久シリーズ 第4戦「2時間後のレース再開のタイミングには間に合わないかと思うほど損傷が激しかったですが、懸命なメカニックたちの作業のお陰で、ピットスタートに間に合うギリギリのタイミングでマシンを送り出すことができ良かったです」
NLS耐久シリーズ 第4戦「レース全般を振り返ると、#170はピットストップのトラブルで順位を落としてしまい、#171もマシントラブルなどで、結果的には4位(#170)6位(#171)でのフィニッシュとなりました。今回は2台ともに残念な結果に終わってしまいましたが、次のNLS5ではチャンピオン獲得ができるよう、全力を尽くしたいと思います」
NLS耐久シリーズ 第4戦「タイヤに関しては、2台とも交換後に徐々にグリップダウンが起こる状況が生じていました。気温・路面温度が上がりすぎていた影響でコンディションに合っていなかったと分析しています。ただしライバルメーカーも同様に、グリップダウンが大きかったと感じていますので、ライバルに勝つためには、気温変化に対する安定性を改善できるとより強いパッケージングができるでしょう」
NLS耐久シリーズ 第4戦「10月に行われる次戦NLS5は、さほど気温が上がらないはずなので、タイヤも従来通りフィットすると想定しています。目標はやはり1-2フィニッシュでのチャンピオン獲得です。それにむけて準備を進めていきますので、ぜひみなさん楽しみにしていてください!」
次戦NLS5はチャンピオンがかかった天王山!有終の美をかざるべく、1-2フィニッシュを狙う
NLS耐久シリーズ 第4戦Uwe監督の言葉通り、NLS5はチャンピオン獲得の可能性が非常に高い1戦だ。NLSシリーズの最大獲得ポイントは1戦あたり15ポイントで、残り2戦を控えたいま最大獲得ポイントは30ポイント。つまりNLS5の終了時点で、16ポイント以上の差が付けばチャンピオン獲得となる。
NLS耐久シリーズ 第4戦現時点でシリーズランキング1位の#170が64ポイント、2位につけるライバルチームのDörr Motorsportが40ポイントで追っている状況。次戦で7ポイント以上、つまり表彰台を獲得することで、#170は自力で年間チャンピオン獲得を達成する。
NLS耐久シリーズ 第4戦そして、初のNLSシーズンフル参戦となる木下隆之選手の挑戦も残り2戦。今シーズンは最高で2位フィニッシュを獲得しているが、やはりトップでチェッカーを受けるシーンを期待してしまう。タイヤの完成度も高まっている今、優勝への準備は整った。次戦NLS5は10月19日に決勝を迎える。その戦いからますます目が離せなくなりそうだ。
TOYO TIRES『PROXES』の製品ラインアップはこちら《取材協力:トーヨータイヤ》
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。