空港へ行く、あるいは空港から市街地に出るためのバスのうち、特に深く考えずに思い浮かぶ象徴的な名称といえば「リムジンバス」だ。
文・写真:中山修一
(リムジンバスにまつわる写真付き記事はバスマガジンWebもしくはベストカーWebをご覧ください)
■空港連絡バス=リムジン?
主に高速道路を経由して空港へ行くバスには、「リムジンバス」、「空港連絡バス」、「空港シャトルバス」、「エクスプレスバス」、「エアポートライナー」、はたまた普通に「高速バス」等々いろいろな総称、或いはブランド名がある。
その中でもリムジンは、運行しているバス会社が言っていようと、そうでなくても、今やどこの場所でも空港連絡バス=リムジンバスの構図が成り立つ勢いで、定着しきった感がある。
しかし、どうしてバスなのに「リムジン」が付くのだろうか……本来のリムジン(Limousine)は乗用車の一種で、後ろの客席と運転席の間に仕切りのある構造を持つ車両のことを指す。リムジンと聞いて真っ先に思い浮かぶであろう、車体の長さはそれほど関係ない。
肝心のリムジンバスで使われるバス車両に、運転席と客室を分ける仕切りが付いているものは殆どなく、そもそも乗用車ではないため、いきなりバス車両がリムジンを名乗るようになったとは考えにくい。
本来のリムジンと、空港行きリムジンバスの間を挟む、橋渡し役を担った乗り物が何か存在しており、それが転じて今日のリムジンバスへと変化していった経緯があるように思えてくる。
■誕生はやっぱりあの大国から
簡単ながら歴史を遡ってみて、リムジンバスのルーツを探ってみることにした。リムジンバスの元になった乗り物が最初に走り始めた国はどこかと言えば、予想通りアメリカらしい。
旅客機による空の交通機関が広がり始めていた1930年代、空港と周辺のホテルを結ぶアクセス手段として、「リムジンサービス」と呼ばれる乗り物の営業がスタートした。
リムジンサービスの車両は乗用車をベースにしており、当時、飛行機はお金持ちが使う移動手段ということで、利用者に不満が生じないよう高級車が使われることが多かったようだ。
タクシーと大きく異なるのは、タクシーが1個人(グループ)単位でお客を乗せるのに対して、リムジンサービスは路線バスと同じく乗合である点。
ただし荷物スペースの確約等、接客設備は路線バスよりもリムジンサービスの方が良いため、運賃は路線バスに比べて割高な設定になっていた。
基本的に乗用車で運行されるリムジンサービスであるが、空港によっては利用者の増加で輸送力が足りなくなったため、新たにバス導入して乗客をさばく事業者も一部にあったようだ。
■羽田空港のリムジンサービス
一方の日本では、1950年代に入り東京国際空港(羽田空港)ターミナルビルの開館を目前に控えると、空港とホテルを結ぶ移動手段が求められるようになった。
外国旅行は言葉の壁や文化習慣の違いから、到着してすぐの旅行者(この場合海外から日本へ来る外国人)が不安を抱くことは珍しくない。
そこで、空港とホテルの間だけは確実な輸送手段を用意して、少しでも旅行者の不安を和らげるのが、当初の主な目的だったと言われている。
そのニーズに対応するべく、アメリカのリムジンサービスが参考にされた。初めて営業免許を取得したのが、1954年にサービスを開始した日本空港リムジン交通、現在の「エアポートリムジン」でおなじみ・東京空港交通の前身だ。
■乗用車からバスへ
日本空港リムジン交通によるリムジンサービスでは、ポンティアック2台、キャデラック1台、クライスラー2台、フォードセダン1台を導入、1日180人の輸送を計画していた。屋根に荷物用のキャリアが付いていたのも特徴の一つ。
当初の段階では、アメリカのリムジンサービスを忠実にトレースしたような、乗用車による乗合輸送サービスであり、大量輸送向けのバスはまだなかった。
その後、訪日外国人に留まらず日本人も含めて利用者が増えていき、乗用車に加えてマイクロバスや大型バスも投入するようになった。
これも前述のアメリカの一部空港で実施されていたと言われる、リムジンサービスの拡大と流れが似ている。
■高級感がカナメです
1970年に刊行した経済誌に出稿された同社の広告を見ると、「空港ー東京都心ホテル間のデラックスバスサービス 航空機の発着に合わせて運行しています」との触れ込みであり、この頃にはバス中心の運行形態に移行していたのが窺える。
元々が高級車をベースにするのがリムジンサービスの呼び物であったためか、車両がバスに変わっても、一般路線バスよりも快適な車内設備を持った車両(昔は特注車だった模様)が好んで使われた。
羽田空港で始まったリムジンサービスとそのバスが、一定の成功を見せたことから、各地の空港が開業しアクセスバスが設定されるにあたり……
……運行を受け持った他のバス事業者も追従して、「リムジン」を名乗るものが増えていった。これがリムジンバスの誕生と普及の、ざっくりした経緯だったようだ。
■そして独自ジャンルの乗り物へ
今日でも、タクシーやハイヤーを活用した、昔ながらのリムジンサービスが行われている空港もあるが、日本のリムジンバスは独り歩きを始め、まったく独自ジャンルの乗り物へと進化したように思える。
前述の経緯を踏まえると、今もホテル発もしくはホテル経由のリムジンバスが多いのは、元が空港〜ホテルを連絡するための乗り物だった慣習に則っているから、と言える。
また、車両で見ると現在のリムジンバス=ハイデッカー車両と言ってよいほどであるが、2扉の路線車でも車体にリムジンと書かれた空港連絡バスが一部に存在する。
そのため、必ずしも1扉のハイデッカー高速車あるいは貸切車でないとリムジンと呼べない、というわけでもなさそうだ。
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