中古車のセオリーや定説は変わりつつある。「新車販売で苦戦したモデルは人気薄だから中古車の値下がりも早いのでは…」なんていうパターンが崩れることも多い。その一例がガルウイングを持つスーパースポーツの「SLS AMG」である。
文:古賀貴司(自動車王国)写真:ベストカーWeb編集部
■そもそもSLS AMGとはどんなクルマ?
2009年フランクフルトモーターショーで発表された「SLS AMG」。クーペはガルウィング式の跳ね上げドアを持つことから1950年代の300SLを連想させてくれたが、半世紀ぶりの後継車というわけではなかった。
SLSは“超軽量スポーツ”を意味するドイツ語「Super Leicht Sport」の略。ロングノーズを持つワイド&ロー(全幅1939㎜、全高1262㎜)なスタイルで大きく見えるが全長は4638㎜しかない。
全長だけで言えばスバル・フォレスターと変わらないにもかかわらず、SLSのほうが大きく見えるのはスーパーカー・デザインの方程式ならではだろう。
ちなみにガルウィング式のドアは手動なので、車内のシートに腰を降ろしてからドアを閉めるのはちょっとだけ大変だ。自動開閉システムを搭載することもできたのだが、車両重量が増えることを嫌ったそうだ。
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■一時期はハイペースで中古車相場が下落
SLS AMGが搭載するM159エンジンはAMGが独自開発したもので、当時「世界で最もパワフルな自然吸気量産エンジン」だった。ボディ骨格は実質先代モデルにあたるM・ベンツSLRマクラーレンのように高価なカーボンファイバー製ではなく、アルミスペースフレームを採用。
“より買い求めやすい”2650万円~、という新車時価格だった。そして今から8年ほど前、SLSの中古車相場は1000万円台半ばより高いくらいで推移していた。このまま順調に下落してくれれば1000万円切るのも時間の問題か?」なんて思っていたのだが…甘かった。もはや過去の法則や定説は通用しないのだ。
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■SLSの価格高騰を生んだ要因は果たして何か?
海外の自動車オークションで顕著なのは2020年以降のSLS中古車相場の上昇である。明確な理由は不明だが、それだけ需要がある、ということには違いない。
コロナ禍が世界的に多くの人にもたらした影響は、YOLO(You Only Live Once:人生一度きり)というメンタリティである。たとえば、これはランボルギーニが会社として認識していることで、オフィシャルにYOLOについて言及しているほど。
SLSはいわゆる“カタログモデル”であって、そこまでレアな存在ではなかったはずだが同じ土俵に並ぶ同年代のスーパーカーよりは手ごろな中古車相場であったことに目をつけた消費者が多かったのかもしれない。
SLSはスーパーカーに並ぶ動力性能を持ちながら、ガルウィング式のドアという“エキゾチック”さがあり、かつては安すぎただけのことなのかもしれない。
そして、最近は新車時価格を下回る中古車は、ほとんど出回っていない。かつては新車時価格が高額なスポーツカーとて中古車市場で待てば安くなるのが当たり前だったが、最近は下げ止まりするどころか、値上がりしがち。「いつかは…」なんて夢見るクルマ好きにとっては正直、キツい現象といえるだろう。
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