中国や米国市場においてバッテリーEV販売の勢いが鈍化し、100%バッテリーEV化を狙っていたボルボやメルセデスベンツなど主要な欧州車メーカーが電動化方針を見直す動きを取るなかにあっても、依然として電動化目標を守ろうとしているホンダ。ただ、電動化に際して不安なのが「シビックタイプR」だ。
VTECターボだからこそという面もあるシビックタイプRであるのに、もしBEVになってしまったら、と考えている人は少なくないだろう。はたして、シビックタイプRは電動化してもブランド力を維持できるのだろうか。
文:吉川賢一/写真:HONDA
ホンダスピリットが詰め込まれているシビックタイプR
現行のシビックタイプR(FL5)は2022年9月に登場したモデルだ。先代のFK8までは英国で生産していたが、当該工場が閉鎖となったことで、FL5は埼玉県のホンダ寄居工場での生産となっている。
エンジンは直列4気筒2.0L VTECターボで最高出力は243kW(330PS)、最大トルクは420Nmを達成、先代タイプRよりも10PS/20Nmのパワーアップを果たした。トランスミッションは変わらず6速MTのみだ。また時代の変化に応じて、ドライブモードセレクトを新たに搭載し、エンジン特性やパワーステアリングの操舵感、サスペンション(ショックアブソーバー)の減衰力、エンジンサウンドなども調節が可能となった。
また、アクティブ・エキゾーストバルブ機構を採用しており、車外騒音法規を満たしながら、エンジン出力向上と迫力ある排気サウンドを両立。スピードメーターの表示上限は時速320kmだ。国内最高峰の箱レース、SUPER GT のGT500に出るホンダチームのベース車も、いまはこのシビックタイプRを採用している(2代目NSXは2023シーズンでGT500を終了)。
シビックの中古車をもっと見る ≫バッテリーEVになってしまうことは、「らしさ」をすべてはぎ取ってしまうようなもの
ホンダとしては、シビックタイプRのように知名度があって、ファンもたくさん存在して、高くても売れるモデルを廃止する考えはないだろう。ただホンダは、「2040年にグローバルでのEV/FCEVの販売比率100%」を目標としており、シビックタイプRであっても例外とできるわけがなく、このまま純ガソリン車で販売が継続されることはないと考えられる。
ただそうはいっても、2.0LのVTECターボエンジンと6速MTを駆使して走らせる、往年のホンダらしさが溢れるスポーツカーであるシビックタイプRがバッテリーEVになってしまうことは、「らしさ」をはぎ取ってしまうようなもの。スポーツ向けのVTECターボ+ハイブリッドを開発してお茶を濁すという手もあるが、それでもファンは納得しないだろう。また、いまさらマイルドハイブリッドにするというのもイケていない。
水素燃焼エンジンならば、環境対応とブランド力の維持という両立も可能なのでは!??
そこで期待したいのは、水素燃焼エンジンの搭載だ。水素燃焼エンジンは、いまトヨタを中心に、大々的に検証実験が行われているが、これまでの内燃機関のユニットを活用できるうえに、環境負荷も低い。ガソリン燃焼ほどのパワーが出しにくいといった課題には、VTECを含むホンダのエンジン制御技術で対策することができるだろう。
水素燃焼エンジンだと「EV/FCEV 100%」という目標からはそれるが、ガソリン車じゃなければ説明はつく。これならば純エンジン車が継続できるストーリーがみえ、環境対応とブランド力の維持という両立も可能なのではないだろうか。ホンダには、水素燃料電池技術があり、2024年7月19日にはCR-V e:FCEVも発売された。ぜひこの知見を活かして、水素燃焼エンジンを開発してほしい。
シビックタイプRの開発責任者である柿沼秀樹氏はかつて、「進化を止めないことがタイプRの存在価値」だと話していた。排ガス規制や、騒音規制など、厳しい規制の施行が今後も計画されている。進化を止めず、ファンの期待に応えつづけてくれる次世代のシビックタイプRの姿に期待している。
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