新車に設定されていない色にオールペイントして差別化を図るオーナーは多い。だが、車両価値が下がることが多いため、ヴィンテージカーで行う人は少ない。それなのにフェラーリのF40をグリーンに色変更した強者もいる。そしてその車両がオークションに出品されることに…。どんな金額になったのだろうか。車両の歴史と共に解説してみたい。

文:古賀貴司(自動車王国) 写真:ベストカー編集部

■予定通り赤いボディカラーで出荷されたF40

ロッソ・コルサと呼ばれる赤のみのはずのF40。本来色変更などに厳しいはずのフェラーリだが…。

 今夏、アメリカ・カリフォルニア州で開催されたRM/サザビーズのオークションに、目を見張るようなフェラーリF40が出品された。

 F40のエクステリアカラーは通常ロッソ・コルサのみなのだが、このオーナーはスターリング・モス卿が乗ったフェラーリ250GTO(パステル調の鶯グリーン)へのオマージュを作り上げた。

 1991年2月27日にマラネッロのラインから出荷されたこのF40。当初、ロッソ・コルサのエクステリアに赤い「ストッファ・ヴィゴーニャ(ヴィゴーニャ生地)」という組み合わせだったそうで、フェラーリ・ドイツGmbHを経て、同年5月にディーター・ウォルフ氏の手に渡った。

 ウォルフ氏は熱心なF40オーナーだったようだ。フェラーリ史研究家マルセル・マッシーニの調査によれば、彼は1992年にイタリア・ムジェロでのF40ミーティングに参加し、翌年にはフェラーリクラブ・ドイツの集会にも顔を出した記録が残っている。よくも、このようなイベントごとの記録が残っているものだ…。

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■色は別にしてヒストリーは極めて正統派

この車両、世間では”ミンティ・フォーティ”(ミント色40)と呼ばれるようになり、世界中のSNSを賑わせることになった。

 1994年、この車は当時のドイツ・フェラーリ・クラブ会長で著名なコレクター、アーノルド・ガルデマン氏の所有となった。しかし1998年頃、不運にも事故に遭遇。

 その後オランダ人オーナーの手に渡り、同国の名門「フォルツァ・サービス」にて修復。2008年にはフェラーリ・クラシケ認証を取得し、その後もヨーロッパ各地を積極的に走り回っている。

 2003年にはフォルツァ・サービスでオドメーターを交換し、当時11,442kmを示していたメーターを7,118km表示のものに交換したことを証明する書類も付いている。

 2010年から2012年まで3年連続で、フェラーリ・トリビュート・トゥ・ミッレミリアにも参戦し、その後、2014年のオークション、2017年のプライベートセールを経て、2021年に現オーナーの手に収まった。

 当初、オーナーは再びロッソ・コルサ塗装にする予定だったが、”いくら綺麗にしても修復歴は消えないし新車ではない”という思いから、スターリング・モス卿の250GTOオマージュ制作することを決断したそうだ。

 インテリアも新車時からの赤ではなく、エクステリアカラーにマッチさせるため、航空機内装を得意とするトリマーの手によってブルーに染め上げられた。

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■改造の類いに厳しいフェラーリでは異例のケース

色替えなどの要素があってもヒストリーが明らかな車両だけに落札金額は高額に。フェラーリの車両としてはかなりレアケースと言える。

 驚くべきことに、名門ミニチュア・モデル・メーカーAmalgamによって1:8と1:18スケールで忠実に再現され、フェラーリ公式ライセンス製品としての栄誉まで手にしているのだ(1:18スケールモデルは本車両の販売に付属する)。

 フェラーリは”魔改造”や”悪評”に対して厳しく対処することで有名な自動車メーカーだ。

 日本でオーナーが訴えられたという話は聞いたことがないが、日本以外では知的財産侵害の「停止警告書」なるものが送付されたという話をチラホラ耳にする。

 もちろん、訴訟に発展するケースも多々あるようだ。ピンクに塗り替えるとフェラーリのブラックリスト(新車購入NG)に載る、という噂も耳にする。

 この車両は2022年に燃料タンクの交換と主要なタイミングベルトサービスが実施された。新色への塗装コストを除いても、直近18ヶ月で43,000ユーロ以上が投じられ、その姿に恥じない完璧なコンディションが保たれている。走行距離は3万1000km強。190万~250万ドルの落札予想価格が掲げられていたが、最終的には179万2,500ドルで落札された。

 ”色替え”、”修復歴アリ”というネガティブ要素ゆえに落札予想価格を下回ったのかもしれないが、今の為替レートだと2億6,000万円弱だ。アメリカの利下げ、不景気到来が囁かれるなか、立派な落札価格であった。

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