クルマに対する第一印象を決める大きな要因になるのが外観デザインであり、特にヘッドライトの造形は文字どおりクルマの“顔”になる。今回は、古今東西の個性的なヘッドライトを持ったクルマを見ていこう。

文/長谷川 敦、写真/トヨタ、プジョー、ポルシェ、ホンダ、三菱、CarsWp.com

■挑戦的なヘッドライトを採用した国産車

前期型の4代目トヨタ プリウス。全体的に先代のイメージは踏襲しているが、ヘッドライトのデザインはかなり大胆に変更され、少々怒っているようにも見える?

●トヨタ プリウス(4代目前期型)

 世界初の量産型ハイブリッド車として登場し、現在のハイブリッド隆盛の礎になったトヨタのプリウス。

 初代の登場が1997年で、2015年には4代目にあたるモデルがリリースされた。

 しかし、その顔つき、特にヘッドライトの形状はあまりにアグレッシブで、斬新なスタイルに賛否両論が巻き起こった。

 この顔を評価する声もあったが残念ながら市場には響かず、2018年に行われたマイナーチェンジでは、前期型のイメージは残すものの、より一般的なヘッドライト形状に変更されている。

●三菱 ミラージュディンゴ

 ミラージュディンゴは三菱が1999~2003年に製造販売していたトールワゴン。

 車名にミラージュがついているが、ハッチバック&セダンのミラージュとはプラットフォームも異なる別系統のクルマであり、シンプルにディンゴと呼ばれることも多かった。

 ディンゴの特徴はやはりヘッドライトにあり、マルチリフレクター式の2灯式ヘッドライトを囲むライトケースのデザインは他に類を見ないものだった。

 しかし販売面では苦戦してしまい、2001年のマイナーチェンジでは普通のヘッドライト形状に改められている。

 それでも状況は好転せず、その他の要因もあって2003年に車種としての短い歴史を終えている。

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■海外の“変顔”はもっとスゴい!?

●ポルシェ 928

 1977年、ポルシェはそれまでの911シリーズに代わる主力になることを狙って完全新開発の928をデビューさせた。

 この928は、ポルシェ伝統のRR(リアエンジン・リア駆動)ではなくV8エンジンをフロントに搭載するFR(フロントエンジン・リア駆動)レイアウトで登場した。

 このレイアウト変更は当然ながらスタイリングにも大きな影響を及ぼし、新登場の928は、ポップアップ式ヘッドライトを採用することによってイメージチェンジも行っている。

 当時のスポーツカーでは開閉式のリトラクタブルヘッドライトを採用するクルマも多く、928も昼間はライトをたたんでおき、照明が必要なときにライトが起き上がって前方を照らす。

 だが、このポップアップライトが起き上がった状態の姿はどこかファニーで、ポルシェのアイコンでもある“カエル顔”を引き継ぎつつも「何か違う」と思わせるものだった。

 残念ながらポルシェの思惑は外れて928はフラグシップモデルにはなれず、同社の主力は911シリーズに回帰していった。

●フィアット ムルティプラ(前期型)

 見た目の奇妙さでいえば本記事で登場するクルマのなかでも群を抜いているのがこのムルティプラだ。

 イタリアのフィアットが1998年に販売を開始した5ドアトールワゴンの何が奇妙なのかは、言葉で説明するより写真を見てもらったほうが早い。

 ロービーム用のヘッドライトは通常の位置にあるものの、ハイビーム用はフロントウィンドウのすぐ下に配置される。

 この変速的なライト配置にともなって、フロントグリルからボンネットにかけて造形もかなり奇抜なものになっている。

 しかし、この思い切りが良すぎるデザインには酷評が集まり「世界で最も醜いクルマ」というありがたくない称号までもらってしまった。

 こうした声を受けて2004年のマイナーチェンジでは大幅なフェイスリフトが実行され、ムルティプラの顔つきは良くいえば一般的、悪くいうと没個性なものに変わっている。

●プジョー 208(初代)

 先に登場した928やムルティプラほどのインパクトはないが、実はかなり個性的なヘッドライトの造形をしているのがフランス・プジョーの初期型208だ。

 2012年にリリースされたこのハッチバック車は、全体として見るといかにもヨーロッパ車といったたたずまいをしているが、ヘッドライドの形状が変わっている。

 全体としては切れ長な印象があるが、外周には段差や切れ込みが入り、他にはない独特なライトカバーのデザインを採用。

 しかし、この試みも成功しなかったのか、2019年に登場した2代目モデルのヘッドライトはより一般的な形状に改められている。

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■スペシャルティカーだからできた大胆なデザイン

ホンダ S660ネオクラシック。アイマスクをしたような顔つきが特徴で、オリジナルのS660とは全然違うイメージに仕上がっている。パーツ変更でこの顔になる

●ホンダ S660 NEO Classic

 ホンダが2015~2022年に販売していたミドシップ軽スポーツカーのS660。

 そのS660にホンダ製のボディキットを装着した状態がS660 NEO Classic(ネオクラシック)ということになる。

 つまり“後づけ”のコンバージョンであり、ネオクラシックがコンプリートカーで販売されたことはない。

 そのネオクラシックのヘッドライト回りのデザインも超個性的で、オリジナルのS660とはまったく異なる姿に変貌している。

 丸型2灯のデザインはホンダ N360をオマージュしていて、どこか懐かしさも感じさせてくれる。

●トヨタ WiLLサイファ

 このクルマをスペシャルティカーのくくりに入れていいのかは微妙だが、ヘッドライトが個性的であるのは間違いない。

 1999年にスタートしたWiLLは、複数の企業が共通コンセプトに基づいた製品作りを進めるプロジェクトで、そのグループの一員だったトヨタはWiLLの名を冠するクルマを開発し、販売した。

 ここで紹介するWiLLサイファは、WiLLシリーズの第3弾として2002年に発売された。

 デザインコンセプトは「ディスプレイ一体型ヘルメット」であり、クルマ全体のフォルムはまさにヘルメット。

 そして丸灯を角型・縦長のケースで囲ったヘッドライトもまた異彩を放っていた。

 WiLLサイファは通常販売が行われていたが、WiLLプロジェクトそのものが2005年には終了となり、このクルマも同時に製造販売が終わっている。

 フロント回りはクルマの顔であり、ヘッドライトは目に相当する。

 つまりヘッドライトはクルマの表情を決定する大きな要因になる。

 だからこそ、時には大胆なデザインを採用した超個性的なクルマが登場し、それが成功につながることがあれば、失敗に終わることもある。

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