全日本ラリーで最も歴史のあるハイランドマスターズで開催されたモリゾウチャレンジカップの最終戦。初日に土砂降りというコンディションに見舞われながらも、選手たちは粘り強い走りを見せ、今シーズンで大きく成長した姿をアピールした。
文:ベストカーWeb編集部 写真:ベストカーWeb編集部、TOYOTA GAZOO Racing
■ヘビーウェットのなか、セッティングが決まった貝原選手
ハイランドマスターズのモリゾウチャレンジカップには、すでに初代チャンピオンを決めている山田啓介選手のほかあわせて7チームがエントリー。毎戦速さを見せるが不運に泣いてきた大竹直生選手は、クルマとチーム体制の強化のため、今回は参戦しなかった。
そのため過去5戦中4勝の山田啓介選手の牙城を崩して、新しいヒーローが誕生するかと?という点に注目が集まった。SSは土曜6本、日曜6本あわせて12本だ。
初日はあいにくの冷たい雨に加えて風があり、標高が高いうえに風もあって体感温度は10℃以下。選手たちにとっては霧と雨に悩まされた第3戦久万高原ラリーの記憶が蘇るはず。
路面状況も雨が降り滑りやすくなった舗装の林道には落ち葉や苔も散見され、「気温が低くタイヤが温まらないこともあってやばそうな雰囲気ですね」「ペースがつかめるまで落ち着いていきましょう」といった声が聞こえてくる。
SS3まで大きな変化はなく、山田啓介選手が3本ともトップタイム。しかし、SS4で山田選手はタイヤ2本がパンクという非常事態に見舞われ、大きくタイムをロス。SS5もSS6もスペアタイヤがなく、慎重な運転を余儀なくされ大きなハンデを背負ってしまう。
代わって実力者の貝原聖也選手が初日のトップに立った。貝原選手は山田選手や大竹選手の陰に隠れているが、ラリーチャレンジでしっかりと速さをつけてきた実力者。
「スローパンクチャーでタイヤを2本失いましたが、ウェットのセッティングが決まったおかげでいい走りができました。チームに感謝です」と振り返るように2位の中溝悠太選手を15秒以上引き離して初日を終える。3位はKANTA選手、山田選手は5位で初日をフィニッシュ。
思わぬトラブルに見舞われた山田選手だが、「今やらなければならないことは無事にサービスに戻ることだと気持ちを切り替えました」と語るが、この冷静さこそ山田選手の強さの秘密だろう。
2日目は雨こそ上がったものの、ところどころ水たまりが残るコンディション。そのなかで速さを見せたのが山田選手。無駄のない走りは一般のお客さんが観戦できるギャラリーステージからの声援を浴びていた。
山田選手は日曜日のSS6本をすべて奪取し4位に順位を上げ、シーズンを通しても大竹選手を逆転し最多SSポイント獲得ドライバーとなった。
優勝は初日のリードを守った貝原選手で、念願の初優勝。「なかなか勝てず苦しい思いもありましたが、優勝できてほんとうにうれしいです」と素直に喜びを口にした。
2位は中溝選手で第5戦モントレーに続く表彰台で「あまり得意なコースではなかったのに2位は上出来です」と語り、成長をアピールした。
3位はKANTA選手。第5戦のモントレーはクラッシュしたため、「少し不安でしたが、3位で締めくくれてよかったです。モリゾウチャレンジカップで多くのことを学びました」と話してくれた。
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■よきライバルたちと高め合ったモリゾウチャレンジカップ
ラリーは未経験という選手が珍しくないモリゾウチャレンジカップ。3月1日に初戦となるラリー三河湾2024に参戦した選手たちの多くは緊張し、冷静なドライビングが難しい状況だった。そのことを示すように出走した7台のうち3台がリタイアという厳しい結果となり、前途多難を思わせた。
しかし、選手たちは参戦を重ねるごとに、自分の実力を冷静に見つめ、そのなかでしっかりと完走することこそが何よりも大事なことというラリーの基本が少しずつ身についていった。
そこにはフィンランドから来日し、指導に当たったTGRワールドラリーチームの講師陣の影響も大きい。彼らは、速さはもちろんだが、冷静な判断力、つまりメンタルをとても重要視する。自分をコントロールしながら速さを競うのがラリーであり、モータースポーツなのだ。
もうひとつ彼らを成長させたのは、ライバルたちの存在だ。モリゾウチャレンジカップに参戦したドライバーたちは30歳以下と若い。シーズンが進んでいくにつれ自分たちの課題や練習方法を語り合っている姿が多くなった。選手たちは、ライバルであり、仲間なのだ。お互いが競い合い、コミュニケーションを取ることで、成長していった。
長いシーズンが終わり、それぞれの課題や目標が見えたなかで、より大きくなった姿を来シーズンは見せてほしい。選手の皆さん、スタッフの皆さん、お疲れ様でした!
なお、年間チャンピオンのドライバー山田啓介選手とコ・ドライバーの藤井俊樹選手はフィンランドで行われるWRCチャレンジプログラム4期生の最終選考会の参加資格が与えられる。
「目標はWRCドライバーになること」を公言してきた山田選手にとって大きなチャンスを手に入れたことになる。30歳と若くはないが、夢を諦めない姿は次の世代の目標になるはずだ。
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