ドイツのMANトラック&バスはバッテリーEV大型トラックの「eTGX」を初めて納車した。第1号車は同じVWグループに属するポルシェのサプライヤが運用するもので、「マカン」EVのバッテリーを運ぶそうだ。
およそ100年前にディーゼルエンジンを実用化したことで知られるMANだが、「電気という新しい時代に入った記念すべき瞬間」としている。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/MAN Truck & Bus SE
MAN、電気トラックの新時代に突入
MANトラック&バスにとって「新時代」は2024年10月15日から始まる。この日、MANは同社初の量産型完全電動トラックの納車を開始した。総重量40トンのバッテリーEV(BEV)・MAN「eTGX」第1号車は、自動車部品サプライヤのドレクスルマイアーグループに引き渡された。
ドレクスルマイアーはeTGXを使って、ポルシェ「マカン エレクトリック」用のバッテリーをライプツィヒのポルシェの工場にゼロ排出で運ぶ。なお、MANとポルシェはともにフォルクスワーゲン(VW)グループに属している。
MANのCEOを務めるアレクサンダー・フラスカンプ氏は次のように話している。
「これは弊社の歴史において画期的な出来事です。MANは100年前に初めてディーゼルトラックを公開しました。今や私たちは電気という新しい時代に入っています。
最初のBEV大型トラックはドレクスルマイアーに提供します。同社のMANへの信頼を、大変嬉しく思っています。数年間に及んだ計画と開発、そして数万kmにわたる試験走行を経て、ようやくスタートを切ることができました」。
ポルシェのライプツィヒ工場への輸送だが、トラックの充電はドレクスルマイアーの施設で再生可能エネルギーのみを使って行なうそうだ。フラスカンプ氏いわく、「これ以上に持続可能な方法はなく、まさにBEVトラックのサクセスストーリー」とのこと。
ポルシェの取締役で生産・ロジスティクスを担当するアルブレヒト・ライモルド氏のコメントは次の通りだ。
「ライプツィヒでの『マカン』の生産に向けて、革新的なBEVトラックで部品が供給されることに満足しています。自動車用のバッテリーモジュールのような大型のコンポーネントも、電気により高品質に輸送できることを、MANのeTGXが証明します」。
いっぽう、ドレクスルマイアーでサプライチェーン管理を担当するフェリクス、クリマス氏は次のように話している。
「私たちは、お客様への実際の輸送を電気によって実現し、ロジスティクスをより持続可能で未来志向のものにするというコミットメントを掲げています。当社の『持続可能性』に対する理解の中心には、サプライチェーンからの排出削減があり、BEVトラックを活用することでこれを実現します」。
実際の購入&運行はレンタル会社と運送会社
なお、荷主企業であるドレクスルマイアーは車両自体は購入せず、輸送を委託する。
車両は欧州最大のMAN商用車のレンタル会社であるビジネス・サービス・フリート(BFS)が購入し、運送会社のスペディション・エルフラインにレンタルし、同社がトラックを運行するという形だ。
BFSのヤン・プリーニンガー氏は「欧州最大のMAN商用車のレンタル会社として、この歴史的な節目に参加し、新時代の到来を告げられることを嬉しく思っています。最初のMAN eTGXにより、持続可能なモビリティのための弊社の先駆的な役割を実証します」と話している。
また、エルフラインのシュテファニー・コッチェンロイター氏は「MANの新しいBEVトラックを運行する最初の運送会社になれたことを嬉しく思います。これをきっかけに持続可能な輸送における取組をさらに強化します。MAN eTGXは運転するのが楽しく、優れたハンドリングと操縦性、並外れたパワーと低騒音が印象的です」と話した。
ドレクスルマイアーの拠点とライプツィヒ工場は約5kmという近距離にある。トラックの積載重量は平均15.5トンとのことで、2024年末までにさらに2台を追加し、合計3台のeTGXでポルシェの部品を運ぶことにしている。
今回使用するeTGXは、330kW(450hp)のモーター出力と、バッテリーパック6つによる534kWh容量という仕様。充電はCCS方式による最大375kWとなる。いわゆるローローダーのトラクタ系で、第五輪の地上高が950mmと低い。
MANは現状では欧州メーカーで唯一、電動のローローダー・トラクタ(「ウルトラトラクタ」とも呼ばれる)を標準で製造するメーカーとなっている。ウルトラトラクタは第五輪の地上高が低いので、内法高3メートルの高容積型トレーラをけん引できる。
重量は軽いが容積がかさむ「軽量カサ物」が多い自動車部品の輸送では、こうしたトレーラが欧州で広く使われている。さらにMANの電動トラックは同クラスで最もホイールベースが短く、あらゆるタイプのトレーラに対応可能だ。
ちなみに最もパワフルなeTGXは、400kW(544hp)のモーターと、7つのバッテリーパックを装着する。7バッテリーモデルは条件にもよるが途中充電なしで650kmを走行可能で、MANの電動トラックは将来的にMCS(メガワット充電規格)にも対応する予定。メガワット級の大電力により80%充電が30分で可能になり、BEVトラックによる長距離輸送も視野に入る。
MANはIAA2024で発表した中型トラックの「eTGL」と併せて総重量で12トンから50トンまでのBEVトラックを提供している。そのバックオーダーは既に2500件を超えているといい、2030年までに同社が販売するトラックの半分はBEVになると予想しているそうだ。
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