厳しい安全規定が存在する自動車用ガラス。国内では1987年9月以降生産の車両では、「合わせガラス」の使用が義務化された。2枚の強化ガラスの間に透明樹脂製の中間膜を挟んで飛散を防止するのだが、この中間膜の多機能化が進んでいる。自動車界のご意見番、水野和敏氏が自動車用ガラスの技術を解説する。

※本稿は2024年9月のものです
文:水野和敏/写真:トヨタ、レクサス、日産、ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2024年10月10日号

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■自動車用ガラスに求められる多くの役割

フロントウィンドウはクリアな前方視界と飛来する障害物から乗員を守るという役割、さらに歩行者との衝突事故ではクッションとしての機能も求められる

 前回に引き続き、自動車用ガラスについて話を進めたいと思います。

 自動車用のガラスには各国に厳しい安全規定があり、専門メーカーがそれぞれの法規に適合させたガラスを設計、製造し、部品としての認証を自動車メーカーに代わって取得しているというお話をしました。

 特にフロントウィンドウはクリアな前方視界を確保すると同時に、飛来する障害物から乗員を守るという役割も必要ですし、歩行者との衝突事故では頭部の衝撃を緩和するクッションとしての機能も必要です。

 こうしたことから、国内では1987年9月以降から生産される車両では、従来主流だった「部分強化ガラス」ではなく、「合わせガラス」の使用が義務化されました。このようなお話を前回はお伝えしました。

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■合わせガラスの中間膜がさまざまな機能を発揮する

センチュリーのリアドア側窓に採用されている調光ガラス。スイッチONでそれまでの透明から一瞬で障子のような乳白色に変化する

 合わせガラスというのは、2.5mm厚程度の2枚の強化ガラスの間に、PVB(ポリビニルブチラール)と呼ばれる透明樹脂製の中間膜を挟んで接合させた構造です。この中間膜により、破砕した際にガラスの飛散を防ぐとともに、粉々に割れることも抑えます。

 そして、この中間膜にさまざまな機能を盛り込むことで、ガラスは近年著しく進化を遂げています。

 赤外線カットと紫外線カットは、今や中間膜の機能としては一般的なものとなりました。断熱性を持たせた中間膜とすることで断熱ガラスも開発されました。

 最近では中間膜に液晶シートを挟んだ調光ガラスも自動車に使われるようになりました。液晶に電気を流すことで透明だったガラスを一瞬ですりガラスのような乳白色に変化させることができるガラスです。

 ガラスルーフに使用されることが多いのですが、レクサス LMの前後席を隔てるパーティションガラスや、SUV型のセンチュリーの後席サイドガラスにも使われています。この調光ガラスは、当然ながらフロントウィンドウには使用できません。

 フロントウィンドウ用の特殊な合わせガラスとして最近採用例が増えてきたのが加熱(解凍)ガラスです。中間膜に視界を遮らない極めて細い電熱線を埋め込んで、通電することで発熱させてウィンドウ内側のくもりを除去したり、外側の凍結を融かしたりします。

 リアウィンドウ用デフォッガーのような太い電熱線では当然、フロントウィンドウには使用できません。あれは200W以上の大きな発熱量の電熱線ですが、フロント用は法規制をクリアした極細の電熱線です。それでも近くからよく見れば熱線が見えます。

 そこで、さらに最新の技術では中間膜に導電コートを施すことで、電熱線を使わずに発熱させるものも開発されました。

 フロントには温風を吹き付けるデフォッガーがあります。エンジンが温まれば温風のほうが効果的にくもりを除去してくれるので、電熱線はエンジンが温まるまでの補助的な働きをすればじゅうぶんです。そのため、リア用と比べて発熱量は小さくてもいいのです。

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■ラジオ用アンテナを組み込んだウィンドウもある

BMWはガラスアンテナを採用せず、ルーフ上に設置したアンテナを使用。こちらのほうが受信感度に優れる。一方ベンツはガラスアンテナを積極的に採用する

 最近では中間膜にアンテナを組み込んだガラスもあります。しかし、受信感度では、より広範囲で捉えるルーフに装着したシャークフィンアンテナよりも若干劣ります。

 しかも最近はFMやAM電波だけではなく、5G通信用の電波も受ける必要があります。ガラスアンテナだと、受信する電波の方向や角度は、ルーフ上に設置されるシャークフィンタイプほどの自由度は得られません。

 この補充としてリアウィンドウやサイドウィンドウなどにもアンテナを追加していますが、受信能力を補うために電波増幅器も必要となり、コストは数万円以上大幅にアップします。このため現在は限られた高級車での採用になっています。

 しかし、異質な突起物がルーフにないためルーフのデザインはスムーズで上質にできます。BMWやアウディのように受信感度とコストを優先するか、或いはベンツのようにデザインと上質感を選ぶか、です。

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■軽量化ガラスはスポーツカー向け

軽量化ガラスのメリットは認めつつも、遮音性や超高速域での耐衝撃性への懸念からGT-Rには採用しなかったという

 通常5mm厚程度のガラスを4mm程度に薄くしながらも強度を保つ「軽量化ガラス」も最近はブームです。

 ただし、ガラスの強度を保ちながら薄く、軽くするためには熱処理の工程などに高い技術が求められるため、コストアップします。

 わずか1mmと思われるかもしれませんが、自動車用ガラスの1mmはもの凄い「厚み」なのです。この1mmを削るために材料を厳選し、技術力を要する製造工程が必要なのです。

 さらに、ガラスが薄くなるため遮音性も低下します。コストがアップして遮音性も低下するのであれば、1グラムでも軽くしたいスポーツカー以外ではあまり使われない結果となります。

 コンフォート性を重視するプレミアムカーであれば、あえて軽量化ガラスを使うメリットはあまりありません。コストを重視するコンパクトカーや軽自動車では、高価な軽量化ガラスの採用は厳しい状況です。

 ちなみに、R35GT-Rの開発時にガラスメーカーから軽量化ガラスを薦められたのですが、サーキットで前走車が飛び出したり、アウトバーンの超高速走行で飛んでくる跳ね石を考慮して、軽量化用薄板ガラスの採用は見送りました。

 その一方で、R35GT-Rのガラス周りの設計には、400km/hで走ったグループCマシンの開発で得たさまざまな技術ノウハウを折り込みました。

 このように現在の自動車用ガラスにはさまざまに進化した技術が折り込まれています。そして現在も新たな開発は続いています。

●今回のポイント!

・合わせガラスの中間膜にさまざまな機能を盛り込ませることで自動車用ガラスは急速に進化を遂げてきた
・中間膜に液晶層を挟み込むことで調光ガラスなども開発されている
・軽量化ガラスは遮音性が低下するため、プレミアムカーへの使用は少なく、スポーツカーへの使用が多い

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