最近出た新車はグレードの数が少なく、ボディカラーも抑えた車種が多くなっている。昔はフルモデルチェンジの際にはグレード数が多く、選りどりみどりだったが、今では廉価版グレードをラインナップしないケースも多い。そこでなぜこんな現象が起きるのか、解説していこう。

文:渡辺陽一郎/写真:ベストカーWeb編集部

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■なぜ最近の新車は発売当初、グレード数を抑えるのか?

フロンクスは2WD・6ATが254万1000円、4WD・6AT
が273万9000円

 最近の新型車を見ると、グレードを少なく抑えた車種が目立つ。2022年に発売されたトヨタアルファードは、ノーマルエンジンとハイブリッドのZ、内装を豪華に仕上げたハイブリッドのエグゼクティブラウンジのみだ。ヴェルファイアも、搭載するパワーユニットに違いはあるものの、グレード数は同じで少ない。

 2024年に登場したスズキフロンクスは、2WDと4WDの選択はあるが、グレードは1種類のみ。ホンダCR-Vも燃料電池車のe:FCEVに限られる。レクサスLBXは、2024年に入って高性能なモリゾウRR、価格を安く抑えたエレガントも加えたが、2023年の発売時点ではグレードが3種類だった。

 最近の新型車がグレードの数を抑える背景には、複数の理由があるが、全車に共通するのは納期の遅延を防ぐことだ。

 最も分かりやすいのはアルファードとヴェルファイア。先代アルファード&ヴェルファイアも人気が高く、コロナ禍の影響もあって納期が遅れたから、先代型は受注を2022年6月頃に停止した。

 この後、受注を再開したのは現行型にフルモデルチェンジされた2023年6月だから、受注台数の生産が追い付かないこともあり受注は新型発売前約1年間も止まっていたのだ。そうなると現行型になって受注を再開すれば、注文が殺到して納期が大幅に遅れる。

 そこで受注台数の抑制も視野に入れ、安くて儲けの少ない廉価版をラインナップせず、しかも価格を大幅に上げた。ちなみに先代の30系アルファードXは327万円(ガソリン車2WD、8人乗り)である。しかもボディカラーはプラチナホワイトパールマイカ、ブラック、プレシャスレオブロンドの3色に制限している。無理に安くしなくても売れるから……ということなのだろう。

 ちなみに現時点で、アルファードのサイドリフトアップシート車には、標準ボディには設定されないGというベーシックなグレードがある。2024年11月上旬時点では、定額制カーリースのKINTOを含めてアルファードとヴェルファイアは納期が極端に遅延したから受注を停止させた。

アルファードZ、ガソリン、2WDは540万円。このZグレードよりも約100万円安いXグレードが2025年1月に追加される予定

 アルファードのグレードはZ(ガソリン、HV)エグゼクティブラウンジ(HV)、ヴェルファイアもZプレミア(ガソリンターボとHV)とエグゼクティブラウンジ(HV)のみになる。

 最新の情報では、2025年1月には一部改良とともに、廉価版のXグレードとプレーシャスラウンジ、PHEVが追加されることになっている。

 フロンクスのグレードが1種類に限られることについても、開発者は「納期の遅れを防ぐため」としている。ただしフロンクスには、インドの工場で生産する輸入車という事情も絡む。輸入車では輸送時間が長く、受発注もシンプルにしたい。そこでフロンクスは、グレードが1種類で、なおかつインドの生産ラインで装着するメーカーオプションも用意しない。

キックスはXとXツートーンインテリアエディションのみだ

 日本メーカーの輸入車には、同様のタイプが多い。日産キックスもタイ製で、2WDと4WDは選べるが、グレードはXとXツートーンインテリアエディションのみだ。

 トヨタハイラックスもタイ製でグレードは2種類に抑えられ、メーカーオプションはない。三菱トライトンもタイ製でグレードは2種類、メーカーオプションはない。

 ホンダWR-Vはインド製で、グレードは3種類だがメーカーオプションは選べない。このように日本メーカー製の輸入車が増えたことも、グレード数が減った理由になる。

インド生産の輸入車扱いだがグレードが少ないのは仕方ないが最初からこの激安価格を提示してくれるとありがたい。WR-Vの価格はXが209万8800円、Z(白いボディカラー)が234万9600円、最上級のZ+(赤いボディカラー)が248万9300円

 このほか輸入車でなくても、売れ行きの少ない車種は、合理化を図るためにグレードを減らす。典型的な例はホンダCR-Vで、今は燃料電池車のeFCEVのみだから、大量に売るのは困難でグレードは1種類だ。

 トヨタクラウンスポーツも、ハイブリッドとPHEVが各1グレードずつになる。今は以前に比べてクルマの売れ行きが下がり、2023年の国内販売台数は、最も多かった1990年の約60%だ。そうなると必然的にグレードの数も減る。

価格とサイズのヒエラルキーを打ち破ったレクサスLBX

 グレード数の減少について、メーカーの表現方法にも注意したい。レクサスLBXは全長が4190mmのコンパクトSUVだが、開発者は「納期の遅延を抑えてお客様に迅速に納車するため、2023年の発売時点ではグレードを中級から上級に絞った」と述べている。

 価格帯は発売時点では460~576万円だった。全長が4495mmのレクサスUXには450万円台のグレードもあるのに、LBXは小さくても価格帯が高く、これを発売時点では「LBXはヒエラルキーを超えた」と表現した。

 そうなると「LBXはコンパクトでも価格帯の高いコンパクトな高級車なのか?」と思うが、前述の通りLBXの受注が落ち着いた2024年10月には、420万円に抑えたエレガントを加えた。LBXエレガントの価格は、レクサスでは最も安い。そして安価なエレガントが追加されると「LBXはヒエラルキーを超えた」という表現は通用しにくい。

■過去を振り返るとどうだったのか?

サイズによってエンジン排気量が比例していた。写真はコロナとパブリカの中間に位置していた初代カローラ

 そもそも過去を振り返ると「クルマのヒエラルキーはボディサイズとエンジン排気量に比例する」というクルマ観を作ったのはトヨタであった。1955年に初代クラウンを実質的な日本初の量産高級車として発売し、1957年にファミリー向けの初代コロナ、1961年には価格の安さを重視する小さな初代パブリカという具合に車種構成を整えた。

 1966年にはコロナとパブリカの中間に位置する初代カローラ、1968年にはコロナとクラウンの間に初代コロナマークIIを加えており、これらはすべてボディサイズとエンジン排気量を基準にしたヒエラルキーに沿っている。

 レクサスブランドも例外ではなく、前輪駆動プラットフォームのSUVでは、上級のRXが最も大きく豪華で、中級になるミドルサイズのNX、コンパクトなUX、さらに小さなLBXと並ぶ。このレクサスファミリーの中にいる限り「ヒエラルキーを超えた」表現は理解されにくい。

 本当にヒエラルキーを超えるなら、トヨタやレクサスとは価値観の異なる3つ目のブランドを立ち上げるべきだ。それが無理なら、LBXはせめて1.6LターボのモリゾウRRを最初に発売して、ヒエラルキーを超えたクルマとしてのインパクトを強めるべきだった。

 また420万円の安価なグレードは設定せず、500万円以上を充実させれば「ヒエラルキーを超えた」クルマ造りにも現実味が生じた。

 いずれにしろ日本車では、LBXのグレード構成の変化からも分かる通り、グレードを豊富に揃えるクルマ造りが王道だ。これは顧客の希望に綿密に応える配慮でもある。

 ヒエラルキーも同様で、高級感や価格をボディサイズやエンジン排気量に比例させれば、ユーザーが選ぶ時に分かりやすい。発売当初は豪華グレードを顧客に買わせて、遅れて廉価版グレードをラインナップするのはやめてほしい。選べる自由と分かりやすい車種/グレード構成は、日本車のメリットとして今後も継承すべきだ。

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