EVの普及には安くて魅力的なモデルが欠かせない。そう思っていたら、まさにドンピシャなクルマが現れた。それがヒョンデのインスター。扱いやすいサイズ、必要十分な装備でなんと300万円台前半という噂なのだが、そこには日韓独特の悩ましい事情も。そんな思いを胸に、韓国の一般道&高速をインスタ―で走ってみた!

文:山本シンヤ/写真:ヒョンデ

■EVの不毛遅滞に切り込むドンピシャな1台

本国での呼び名はキャスパー。EVの輸出名はインスタ―となる

 日本では、“鳴り物入り”で導入されるも散々な結果で惨敗に終わり、撤退してきたモデルがいくつか存在する。古くは130万円からの低価格をアピールした「クライスラー・ネオン」、“礼を尽くす”のCMが話題となった「サターン」、さらには日米貿易摩擦の緩和の目的でトヨタバッジを付けて発売された「トヨタ・キャバリエ」などが挙げられる。

 これらの多くは“コンパクト”で“高機能”な日本車にガチで対抗するために開発された戦略モデルだった。そんな特徴から当時のメディアから「日本車キラー」と称されたものの、実際に試乗してみるとクルマとしての出来は“いま一つ”だったのを覚えている。

 ただ、今回はこれまでのモデルとは状況が異なる「日本車キラー」に試乗をしてきた。それは日本導入予定のヒョンデのコンパクトBEV「インスター」である。

 創立は1967年と、自動車メーカーの中では比較的若いヒョンデだが、短期間で世界の自動車メーカーに肩を並べる存在になったのは紛れもない事実だ。日本では2001年に市場参入するも2009年に撤退。その後2022年に再参入を行ない、現在は「BEV/FCEVのみ」、「オンライン販売のみ」と言う大胆な戦略を掲げている。2023年の販売台数は489台、もう少し台数を伸ばしたいのが本音だろう。

 現在、日本では他の国よりスピードは遅いもののBEVのラインナップが増え始めている。ただ、意外と不毛地帯なのが「取り回しの良いサイズ」と「1台で賄えそうな300~350kmくらいの航続距離」、そして「内燃車から買い替えやすいアフォーダブルな価格」をバランス良く両立させたモデルであり、インスターはそこにドンピシャでハマる一台だ。

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■欲しい装備はすべて付いてる!

全長3.8mというリーフとサクラの中間サイズ

 ボディサイズは全長3825×全幅1610×全高1575mm、ホイールベース2580mmと、トヨタ・ヤリスに近い。クロスオーバー風のデザインはスズキ・ハスラー/クロスビーに似ているような感じだが、前後のライト回アリはIONIQ5で採用されたポリゴンデザインを採用することで先進性も備える。

 インテリアは奇を衒わないオーソドックスなインパネレイアウトで質感もそれなりな所はあるが、フル液晶メーター、ナビ付きのタッチスクリーン、運転支援(ACC+ステアリング制御)、パドルシフト(回生量コントロール)、電子パーキングブレーキ&ホールド機能、ステアリングヒーター、シートヒーター&空調、ワイヤレス充電機能などなど、日本のユーザーが「欲しい‼」と思うであろう装備はすべて設定されている。

 肝心な走りはどうか? 今回、試乗したのは上級のロングレンジで、84.5kW(115ps)/147 Nmのモーター、47.0kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、航続距離はWLTPモードで370(15インチ)/360km(17インチ)と言うパフォーマンスを備える。

 今回は韓国の一般道~高速道路で試乗したが、車両重量は1451kgを感じさせない力強さを実感。日本よりも運転がアグレッシブ(⁉)で瞬発力が求められるシーンが多々あったが、スペック以上の力強さ。ただ、アクセルを踏んだ時のトルクの立ち上がりは強いが、そこから先の伸びは物足りなさを感じたのも事実。

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■当たり前のことが当たり前にできる

奇をてらわないインテリア。収納も豊富

 気になる電費は高速7割/一般道3割くらいを走らせて8.5~9.0km/kWhを記録。走行前の航続距離とトリップメーター+残りの航続距離も誤差も少なく、実用の航続距離はカタログ値に限りなく近そうだ。

 プラットフォームは内燃機関モデル用(ヒョンデK1プラットフォーム)をベースにBEVに最適化されたモノ(バッテリー搭載に合わせて床下にフロアメンバー追加)を採用。それに合わせてEPS制御やサスペンションのセットアップも最適化。更に静粛性アップのために二重シールやアコースティックガラス、補強されたラゲッジボード、アンダーカバーの採用なども行なわれている。

 フットワークはコンパクトモデルを感じさせないドシっとしたモノで、全幅1615mmを感じさせない直進安定性。コーナリング時はスポーティ/ワクワクと言った過度な演出は一切なく、操作した分だけ素直に曲がる印象だ。

 具体的には応答性や挙動変化を含めたコーナリング一連の流れは穏やかだがダルではない、トレッドが拡大されたかのような安定感とFFらしからぬ4輪を効果的に使った旋回姿勢、基本は安定方向の挙動などを実感。要するに「当たり前のことが当たり前にできる走り」が備えられている。

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■補助金を使えば200万円を切るか!?

乗り心地は良好。夏タイヤの走りも試してみたい

 快適性は偏平のオールシーズンタイヤ(205/45R18)特有の硬さを感じないといえば嘘になるが、ストローク感の高いサスペンションはショック/振動をフワッと上手に減衰してくれるので、多くの人が「乗り心地いいね」と感じるだろう。

 ただその一方、高速道路などで大きなうねりを乗り越えるような時に、ショックが一発で収まらないことがあったので、個人的にはもう少し硬めのセットでいいので、バネ上の無駄な動きは抑えたほうがいいと感じた。

 静粛性はロードノイズに不利なオールシーズンタイヤ、風切り音が不利なボディ形状だが、それらが気にならないレベルに抑えられている。その証拠に、今回の走行で一番気になったのは車両接近警報音だったくらい。

 ちなみに日本での導入時期はハッキリしていない上に価格も未公表だが、日本では兄貴分となるコナが400~500万円ということを踏まえると、フル装備で300~350万円くらいじゃないかなと予想。補助金を活用すれば多くの人にとってかなり現実的な選択肢になってくるはず。

 ハードの実力とコストのバランスと言う観点で見ると、日本車もウカウカしていられないレベルである事は間違いない。

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■「ヒョンデを選びたい」という決め手が必要

アイオニック5同様「ピクセル」をモチーフに活かしている

 では、インスターは「日本車キラー」になれるのか? それは素直にYESとは言えない。その要因はいくつかある。

 まずは「オンライン販売」だろう。2023年のヒョンデの日本での販売台数は489台、「現在は台数云々よりブランドの認知に重きを置いているフェイズだ」と語るも苦戦しているのは事実である。

 インスターは普通のユーザーに買ってもらいたいモデルであり、ターゲットカスタマーは国産車ユーザーである。その多くはこれまでのように販売拠点に出向き、実際に「見て・触って・試して」から買いたいと思うが、その場がないのは辛い。

 続いては「日本人の輸入車に対する想い」だろう。昔よりは一般的になったものの、今でも「ガイシャ」と特別な感情を持っている人が多いため、ベーシックなモデルは支持されにくい環境だ(それを好むマニアもいるが、ごく少数)。例えばメルセデス・ベンツはAMGパッケージ、BMWのMスポーツパッケージがノーマルモデルよりも人気なのは、そういうことだ。

 インスターは工業製品としてはとても優れているが、「それでもヒョンデを選びたい‼」と思わせる決め手、つまりクルマという商品としての魅力がまだまだ足りず、「いい人」で終わってしまっている。

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■「愛」が付く工業製品ゆえの悩み

普及価格帯のEVは絶対必要なはずだが……

 そして最後は日本人の「反韓感情」だろう。記事で韓国車を誉めると「お前はいくらもらったんだ」、「良いはずがない」と言った誹謗中傷をたくさん受ける。恐らく、今回の記事もそうなると予想する。

 もちろん日本と韓国はいろいろな問題から関係性は良好とはいえないのも事実だが、クルマの評価は別である。なぜ、K-POPや韓国料理、さらにはギャラクシー(サムソン)やLGのテレビは何もいわれないのに、韓国車となると途端にピーキーになる。私だって人間なので傷つく……。 

 もちろんクルマは「愛」が付く工業製品なので、いろいろな感情が出てくるのも解らなくないが、ファクトとオピニオンは切り分けなければダメだろう。もちろんヒョンデは一度日本から撤退しているので、その信頼を取り戻すのは時間がかかると思うが、もう少し冷静に見てほしい。

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