小さいAクラスから各種SUV、ワゴンにクーペ、カブリオレと、とにかくラインナップが多いメルセデス・ベンツ。しかし、過去には1台で終わってしまった車種も存在している。しかもそれが中古車市場では不思議なほど高値で取引されている。今回は高級ミニバンRクラスの今を解説してみたい。

文:古賀貴司(自動車王国)/写真:メルセデス・ベンツ

■空いていた高級ミニバンという市場に投入されたRクラス

2005年にデビューし、日本では2006年から販売されたRクラス。11年近く販売され、2011年にフェイスリフトが行われている。写真は後期モデル。

 2002年に「ビジョンGTS」、2004年に「ビジョンR」としてデトロイト・モーターショーにて披露されたメルセデス・ベンツのコンセプトカー。その後、2005年から「Rクラス」として市販されることになった。

 メルセデス・ベンツはRクラスをステーションワゴン、クロスオーバー、SUV、バンの要素を併せ持つ“新しい高級乗用車カテゴリー”として顧客に売り込もうとした。

 当時、メルセデス・ベンツにとって最大のマーケットであったアメリカにおいて、新たな購買層を獲得すべく生まれた車と言っても差し支えないだろう。

 乗用車カテゴリーを見渡した際、MPV市場での高級車の不在に着目したものと思われる。

 たしかにアメリカにおけるMPV人気は、日本で言うところのミニバン人気と似ていた時期がある。Rクラスの年間販売台数は5万台と野心的な目標を掲げていた。

記事リンク

前の記事

ええ、189万円スタート!? [初代ヴォクシー]はなんで激安だったのか!!!!!

次の記事

てかさ……[アルファード]と[ヴェルファイア]のオススメ[パワーユニット]って結局ナニ

■モンスターエンジンを積むAMG 63も用意されていた

グレード構成は当時の各クラスと同じく、ベースグレードに写真のV6を積んだ350、上位に500、そしてAMGの63を設定していた。

 プラットフォームは同時期のMクラスやGLクラスと共有しており、アメリカにて生産された。MPVながら全長4930×全幅1920×全高1660mmと威風堂々としたボディサイズだったのは、アメリカ市場がメインターゲットだったからと推測できる。

 全長はほとんどトヨタ・アルファード(現行)並みで、全幅に至ってはRクラスのほうがワイドだった。Rクラスは3.5L V6エンジンの「R350」と5L V8のエンジンの「R500」ほか、AMGでは6.3L V8のモンスター「R63」も存在していた。

 いずれも駆動方式は4マチックを採用。なお、R63は高級MPVながら0→100㎞/h加速4.6秒と今の水準でも目を見張るものだった。日本におけるRクラスの販売台数を示す資料は手元に存在しないが、決して芳しいものではなかっただろう。

 売れると見込んだアメリカ市場においても2006年に1万8000台強というピークこそあったものの、2007年は1万3,000台強、2008年は7,000台強、2009年以降は3,000台に満たなかった。

 リーマンショックという世界的な金融不況の影響もあったが、メルセデス・ベンツとて世界的なクロスオーバーやSUVブームの流れには逆らえなかったのだろう。

 アメリカでの販売は2013年に、日本では2014年に販売を終了したが、中国だけは年間1万台5,000台弱がコンスタントに売れ続け、2017年まで販売終了しなかった。つまり、1代限りで絶版となっている。

記事リンク

前の記事

ええ、189万円スタート!? [初代ヴォクシー]はなんで激安だったのか!!!!!

次の記事

てかさ……[アルファード]と[ヴェルファイア]のオススメ[パワーユニット]って結局ナニ

■不思議な変動をしているRクラスの中古車事情

メルセデス・ベンツの高級感に3列7人乗りのミニバンという組み合わせは、一周まわって現代なら意外とウケそうなものだが…。

 2006年の日本デビュー時の新車時価格は、メルセデス・ベンツのRクラスが724万5000円~1003万8000円、2007年にお目見えしたAMG R63が1400万円であった。新車が売れなかったからなのか、中古車として輸出されてしまったのか、定かではないが現在の中古車市場を見渡してみると、とにかく流通量が少ない。

 Rクラスは両手で数えられるほどで、R63に至っては5台以下…。もちろん、新車登録からの経過年数や走行距離に比例してはいるが、2011年以降の後期型に至っては、なんとまだ新車時価格の3割ほどの価値をキープしている。

 ちょっと前まで順当に値落ちしていることが観測されたが、今や高値安定なのだ。驚かされるのはR63で、2007年式で走行距離は14万㎞オーバーながら、なんと新車時価格の半分の約700万円で販売されている物件もある。

 恐らく仕入れ値が要因ではなく、流通台数が少ないから競争原理が働いていないのだろう。

 そして、面白いもので時間が経過するにつれ“あの車、懐かしいなぁ”、“見かける機会が少なくなったから乗りたい”と思う中古車ユーザーが出てくるのだ。

 “もっと安くまで待とう”と思うと、いつしか想定よりも高値安定してしまうのが中古車相場。あまり深く考えず欲しいと思ったときに購入することが、中古車購入の極意でることをつくづく思い知らされる。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。